出版社内容情報
今世紀屈指の思想家・文学者カネッティが自己形成に関わった人々との出会いを回想し,彼の群衆と権力,死と変身という偉大なテーマの生成経緯を明確に示した自伝。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
67
16歳までを回想風に語る自伝的三部作の第一作。作者が語るのは、親族に囲まれた幼少期や父の死、その後の母との緊密な関係や個性豊かな教師や級友たちのこと。それらの人物や経験を通し一個の人間が、死や嫉妬の意味や、多くの相反するものを包含し得る人の複雑さを発見し自己を拡大してゆく様子が魅力的に語られて、作者のことが好きにならずにいられません。同時にそれらの経験が現在の自分を形成していることが示され、これが自身と彼を形成した人々を「再び見出」す旅であることも示唆されます。知識を広げる少年期の強制的な終わりで次巻へ!2021/09/14
sabosashi
8
コロンブスのことを忘れ去ったとしても1492年というのはヨーロッパにとって意味深く、いくつかの忘れがたいことが発生。 そのひとつはイベリア半島からのユダヤ人の追放。セファルディとよばれるこれらのユダヤ人はおもにブルガリア方面へしぶしぶ移動。言語エスニックとしても存在感あり、こんにちにおいても十六世紀のスペイン語がそこでは生きながらえている。 カネッティたち一族はビジネスに秀でたおかげで前世紀にイギリスに移動、経済的成功をかちとる。しかし主人公らはビジネスになじめず、文化へと惹かれていく。2020/11/18
呼戯人
5
こんなに瑞々しい知性の発展の物語が他にあるだろうか。ブルガリアで生まれたスペイン系ユダヤ人の少年が、何か国語もマスターしてゆき、そしてノーベル文学賞を獲得するような大知識人になってゆくその端緒の物語である。自伝というジャンルの中でも傑出した作品であると思う。日本でいうと加藤周一の自伝である「羊の歌」に匹敵するような素晴らしい散文である。2015/04/10