内容説明
夏目漱石『こころ』は、一九一四年に連載が開始されて以来、日本近代文学を代表する作品として読まれ続けてきた。また、優れた翻訳によって、国内だけでなく、海外でも読まれ、研究される作品となっている。国内外の研究者による様々な論攷から、百年を経た過去の作品としてではなく、世界で読まれる文学作品としての魅力と読みの可能性を提示する。
目次
第1章 『こころ』の仕組み(『こころ』と反復;思いつめ男に鈍い男―夏目漱石「こころ」;「こころ」:ロマン的“異形性”のために;深淵に置かれて―『黄梁一炊図』と先生の手紙)
第2章 『こころ』というテクストの行間(語り続ける漱石―二十一世紀の世界における『こころ』;クィア・テクストとしての『こころ』―翻訳学を通して;『こころ』と心の「情緒的」な遭遇;「道のためなら」という呪縛)
第3章 誕生後一世紀を経た『こころ』をめぐって(朝日新聞の再連載からみる「こころ」ブーム;シンポジウム「一世紀後に読み直す漱石の『こころ』」を顧みて;『こころ』の授業実践史―教科書教材と学習指導の批判的検討;カタストロフィへの迂回路―「イメージ」と漱石)
夏目漱石『こころ』研究史(二〇一三~二〇一五年)
感想・レビュー
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chisarunn
5
漱石文学の中でも最も読み継がれ、高校教材の定番となっている「こころ」を世界的な視点、世界の中でどう位置づけるかという観点で書かれた論文集である。先に断っておくがほとんどはナナメ読みした。自分が読みたかったのは「クィア・テクストとしての『こころ』翻訳学を通して」(スティーブン・ドッド)この論文だけである。著者は「先生」と「私」の間の鎌倉の海における場面において、「エロチックな交わり」を示唆しているとしているが、自分の解釈ではこの部分は前説だと思う。真の「過剰に親密な関係」はその先にあるのではないか。2023/02/06