出版社内容情報
お墓がふたつに分かれた理由―
それは、西方の墓場を歩むことで紐解かれる両墓制。遺体の埋葬地と、遺族が参拝する石塔墓地が分かれた墓制をこう呼ぶ。
その分布は近畿・中部地方に濃厚である。なぜこの地では、両墓制をとったのか？
柳田国男・折口信夫らに始まる墓制研究は、なぜそれを「固有の信仰」ととらえてしまったのか？
その発生の起源と歴史的展開を実際のフィールドから探り、仏教と深く結びついてきた両墓制の実態を明かす。
＊サンマイとは…
「三昧」とも。サンスクリット語から音訳された仏教用語で、心が静かに安定した状態を示す。それが時代を経て変化し、現在では遺体埋葬地や火葬場を指すことが多い。本書では埋葬地・火葬場を指す民俗用語としてカタカナで「サンマイ」と表記する。
序
課題としての両墓制―仏教民俗的現実
民俗語彙と民俗事象―記号表現と内容
? サンマイ―比較の方法
一 記号としてのサンマイ
民俗語彙としてのサンマイ?―両墓制の遺体埋葬地
民俗語彙としてのサンマイ?―民俗的火葬の火葬場
仏教用語としてのサンマイ―大乗仏教経典の「三昧」
サンマイという記号を基準とした分析方法―意味される内容の同質性
古典にみる「三昧」―仏教教義から火葬墓制への語義変化
『行基菩薩草創記』―千日墓所聖と「三昧」
二 火葬と遺体埋葬
民俗事象としてのサンマイの比較―構図の類似性
民俗語彙比較の問題点―欠陥の柳田民俗学
サンマイ以外の両墓制民俗語彙?―タチバ
サンマイ以外の両墓制民俗語彙?―ミステバ
火葬を志向した中世―中世の火葬と近世の遺体埋葬
? 両墓制のとらえられ方―問題点と課題
一 起点としての沖縄と風葬
権威としての両墓制―学説形成の隠喩
『民族と歴史』―佐喜真興英と喜田貞吉
「火葬と大蔵」―喜田貞吉による火葬への着目
伊波普猷「南島古代の葬儀」―原型としての風葬
「ハフリ」―遺体処理を意味する記号表現
伊波普猷の日琉同祖論―「日本文化の南漸」
柳田国男「葬制の沿革について」?―「我々は三昧を墓だとは思つて居なかつた」
柳田国男「葬制の沿革について」?―「第二の葬処こそ本当の我々の墓」
二 両墓制の「祖霊」祭祀
「家永続の願ひ」―「祖霊」祭祀の強調
『旅と伝説』誕生と葬礼号―墓制資料の本格的収集
山村調査と大間知篤三「両墓制の資料」―両墓制用語の初出
大間知篤三「墓制覚書」―両墓制用語の暫定性
沖縄の洗骨・改葬の分離―大間知篤三による独立的研究課題の設定
霊魂観研究としての両墓制―「固有信仰」としての「祖霊」祭祀
三 戦争と両墓制
『民間伝承』の「生死観特輯号」―熊岡美彦「九軍神の肖像」
柳田国男『先祖の話』―「七生報国」のなかの両墓制
最上孝敬「両墓制について」―「埋め墓」と「詣り墓」
佐藤米司『葬送儀礼の民俗』―「埋め墓」のケガレ
学説形成の分解―研究課題の再設定
四 両墓制研究の転換
原田敏明「両墓制の問題」―原型把握批判
村瀬正章「?墓のない家がある?」―浄土真宗の「無墓制」
森岡清美「墓のない家（墓制の一側面）」―浄土真宗の無石塔墓制と両墓制との比較
森岡清美「墓のない家（墓制の一側面）」その後―浄土真宗の無石塔墓制の継続
浄土真宗地域の非「祖霊」信仰―「阿弥陀仏」信仰
火葬骨墓上植樹―「祖霊」信仰としての把握
非「祖霊」的納骨塔―石塔以前を仮定
両墓制解明の視点―無石塔墓制と両墓制との比較分析
? 民俗的火葬からみた両墓制?―基本的要素の摘出
一 民俗的火葬から両墓制への転換
宮本常一『河内国滝畑左近熊太翁旧事談』―真言宗地域での民俗的火葬から両墓制への転換
滝畑ダム建設による墓地移転―滝畑の両墓制の変化
真言宗地域の高野山納骨―本山納骨と石塔墓地
橋本鉄男「ムシロヅケノ溜」―浄土真宗地域での民俗的火葬から両墓制への転換
民俗的火葬からの転換による両墓制―その仏教儀礼的性格
二 民俗的火葬と両墓制の地域的併存
同一集落内での併存―浄土真宗の民俗的火葬と曹洞宗・浄土宗の両墓制
隣接地域での併存?―滋賀県琵琶湖湖東の民俗的火葬
隣接地域での併存?―滋賀県琵琶湖湖東の両墓制
隣接地域での併存?―三重県伊勢地方西部の民俗的火葬と両墓制
三 民俗的火葬と両墓制の同質性
民俗的火葬と両墓制の同質性の仮定―比較分析のための基本的要素
民俗的火葬の基本的要素―三重県桑名市多度町の事例
部分収骨―岐阜県海津市の事例
? 民俗的火葬からみた両墓制?―基本的要素の分析
一 民俗的火葬と両墓制の広域的併存
県レベルの分布と併存―三重県・愛知県・福井県
野葬礼・部分収骨・三分骨―残余火葬骨の遺棄
オテツギ納骨―集落外のオテツギ寺院
野葬礼での引導―三方湖畔のサンマイ
遺体の忘却―若狭大島のサンマイ?
現代の火葬受容による変化―若狭大島のサンマイ?
ハイソウマイリについての仮説―おおい町佐分利川流域のミハカ?
現代の火葬受容による変化―おおい町佐分利川流域のミハカ?
二 仏教寺院納髪・納骨
仏教寺院納髪・納骨?―八葉寺
仏教寺院納髪・納骨?―元興寺極楽坊
三 両墓制と無石塔墓制の本山納髪・納骨
両墓制の本山納髪・納骨?―滋賀県高島市今津町のサンマイ
両墓制の本山納髪・納骨?―滋賀県高島市安曇川町のサンマイ
? 無石塔墓制からみた両墓制
一 無石塔墓制と両墓制の併存
仏教民俗としての無石塔墓制と両墓制―石塔墓地の有無
浄土真宗の無石塔墓制と浄土真宗以外の両墓制―滋賀県近江八幡市のサンマイ?
浄土真宗による無石塔墓制の選択―滋賀県近江八幡市のサンマイ?
寺院によるサンマイ―滋賀県近江八幡市のサンマイ?
二 無石塔墓制に石塔墓地の付加
曹洞宗の無石塔墓制―滋賀県東近江市永源寺町のサンマイ?
臨済宗の無石塔墓制―滋賀県東近江市永源寺町のサンマイ?
浄土真宗の無石塔墓制―滋賀県東近江市永源寺町のサンマイ?
無石塔墓制と両墓制・民俗的火葬の併存―墓制のわかりくにさ
三 サンマイから石塔墓地への移行
寺院境内の隣接地型の両墓制―管理されるサンマイ
ショウネを入れる―仏教的死者供養
四十九日のハコワリ―単墓制との比較
? 両墓制の仏教民俗的構成
一 「西方極楽」往生のためのサンマイ
サンマイの地理と形状―集落はずれの長方形
サンマイの構成―「南無阿弥陀仏」による「西方極楽」往生
石塔墓地の地理―寺院境内
遺体埋葬地と石塔墓地の対応関係―非一対一対応
二 サンマイの非家原理
空き空間順葬法―非家原理?
順列葬法―非家原理?
年齢別葬法―非家原理?
家別葬法―家原理
三 二つの仏教民俗
サンマイの「西方極楽」往生―石塔以前
石塔墓地の仏教的「祖霊」信仰―「お墓」の誕生
サンマイから石塔墓地への移行―「西方極楽」往生と仏教的「祖霊」信仰の異質性
結
両墓制と墓制史―サンマイへの石塔墓地の付加
民俗―重層性と様式
参考文献
あとがき
岩田重則［イワタシゲノリ］
著・文・その他
内容説明
お墓がふたつに分かれた理由―それは、仏教的「西方極楽」をのぞむことで紐解かれる。―両墓制。遺体埋葬地と石塔墓地が分かれた墓制をこう呼ぶ。その分布は近畿地方に濃厚である。なぜこの地では、両墓制をとるのか？柳田国男らに始まる墓制研究は、なぜそれを「固有信仰」ととらえてしまったのか？その発生の起源と歴史的展開を実際のフィールドから探り、仏教と深く結びついてきた両墓制の実態を明かす。
目次
序
１ サンマイ―比較の方法
２ 両墓制のとらえられ方―問題点と課題
３ 民俗的火葬からみた両墓制（１）―基本的要素の摘出
４ 民俗的火葬からみた両墓制（２）―基本的要素の分析
５ 無石塔墓制からみた両墓制
６ 両墓制の仏教民俗的構成
結
著者等紹介
岩田重則［イワタシゲノリ］
１９６１年静岡県生まれ。専攻は歴史学／民俗学。中央大学総合政策学部教授。１９９４年早稲田大学大学院文学研究科史学（日本史）専攻博士後期課程単位取得退学。２００６年博士（社会学。慶応義塾大学社会学研究科）（本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです）
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
