出版社内容情報
野(の)・山(やま)・川(かは)など、地名に使われる普通の言葉のもとの意味を探る中から、文字以前、声だけが響いていた時代の列島の風景と人々、その暮らしを再構成する。
内容説明
江戸の「エ」と浦安の「ウラ」は、たいていの辞書で意味はほぼ同じだが、ほんとうに、もとからそうなのか?滋賀と志摩の「シ」は、文字は違うが意味は違う?同じ?伊賀・甲賀の「ガ」は、めでたそうな漢字の皮をむくと、どんなもともとの意味を担っているか?地名を形作る言葉のもともとの意味を探り、文字以前の時代の列島の景観と人の営みへとさかのぼる。
目次
1 日本列島の原景語(ノ・ヤマ(野山)
ヤマ・カハ(山川)
ウミ・ヤマ(海・山)
ハラ(原)
エ(江)とウラ(浦)
シマ(島)とクニ(国)
翻訳語アメ・ツチ(天地))
2 国名以前の地名と国名の生いたち(国名以前の在所名「ガ(カ)」
国々の位置取りの認識
宮処となった「山ト」と「山シロ」
「好字」が消した原景
国名における〈声〉の自立)
3 先史を秘めた奇妙な当て字地名(色浜・色川―イロ;象山・象潟―キサ;犀川―サキ;尼(が)辻・尼(が)崎―アマ
安食―アジキ
桜島―サ・クラ)
結びにかえて―タ(田)の来歴
著者等紹介
木村紀子[キムラノリコ]
1943年生まれ。松山市出身。奈良大学名誉教授。専攻は言語文化論・意味論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ふう
68
読友さんの感想で知った本。単純に「地勢=原景」と解釈して読み始めたのですが、漢字が渡来する以前、『声だけが響いていた時代』に生まれた呼び方から研究が始まります。人々がどんな場所をノ(野)、ヤマ(山)ハラ、シマと呼んでいたのか、それらが長いときを経、漢字を得てどのように変化したのか。まるで神話の時代の人々が近くで生きているかように具体的で、ロマンさえ感じる研究書でした。「好字」という言葉を初めて知ったのですが、地名に限らず、人々が言葉や文字に力があると信じ、祈りを込めて使っていたことがわかります。2023/12/02
mazda
61
桜島は「桜」ではなく「サ・クラ」となり、新たな火を吹き続けて入るということらしいです。2024/06/21
tamami
54
著者は、言語文化論・意味論を専攻する奈良大学名誉教授。地名研究の方法の一つに、全国に点在する同地名の地形や地質、その地に伝わる民俗的事象といったものから、その地名の意味を解明していく方法がある。著者の方法は、万葉集を始めとする古典の中に、地名に当たる言葉を拾い、他の言葉などと照合する中で原意を探っていく。著者の博捜・博識ぶりに驚くとともに、老後の勉強としても楽しいだろうなと思う。因みに著者は御年80歳。ノ(野)、ヤマ(山)、カハ(川)、ハラ(原)、ウラ(浦)などの言葉が溢れていた古代の列島の景観を思う。2023/12/08
へくとぱすかる
51
ヤマ・カハなど、地勢を表す基本的なコトバが、元来どんな状態の土地を指していたのかを、万葉歌等から推理していく。その結果古代日本の景観や生活が見えてくる思いがするから、不思議なものだ。第2章からの論考を読んで思ったのは、漢字のイメージにごまかされてはいけないということ。好字2字で地名を書けと推進したために、本来の意味をわかりにくくくしている。地名の意味は、発音から考えると、案外解決への道が開けることが多いだろう。仏教用語にある和語が不思議だが、その理由の追及も興味深い。他言語説をさらに検討したいところ。2024/05/02
翠埜もぐら
22
木村紀子先生の本は「原始日本語のおもかげ」なんかもそうでしたが、語り口がとても静謐ででも力強く、特徴のある文体で大変心地よいのです。これだけでもとっても好きなのです。で、今回はどこにでもある「山」とか「野」とか「津」とか、そこここにある地名の原初を考察。深い、とっても深い。変換で一発で出ない「原景」は、地形が作り変えられる前、日本の原初の姿に付けられていた、物によっては今でもかすかに残っている地形の呼び名だったりします。そう、文字は後からつけられた。字も大切だけど、音の情報量も多いんだなぁ。2023/11/21