出版社内容情報
南進論の系譜から、日本の委任統治時代、玉砕の戦場となった太平洋戦争期、戦後の水爆実験に至る、南洋群島の“忘れられた現代史”。
はじめに
第一章 日本帝国の南進
上から操作された「南進ブーム」/南進論の系譜/「無主無人の島」/スペインの植民地政策/南洋のシベリア/天から降ってきた「第三の植民地」/太平洋戦争への重大な伏線/委任統治の受任国というステータス/ジョーカーを引いた日本
第二章
内容説明
西太平洋の広大な海域に点在する、六〇〇を超える島々。日本は太平洋戦争に敗れるまでの約三〇年間、現在ミクロネシアと呼ばれる、この「南洋群島」を事実上の領土として支配した。「楽園」といわれた島々は太平洋戦争で玉砕・集団自決の悲劇の舞台となった。「海の生命線」として戦略的に重要視されつつ、その後は忘却されてきた島々を通史的に描く。
目次
第1章 日本帝国の南進
第2章 冒険ダン吉と三等国民
第3章 海の生命線
第4章 楽園と死の美学
第5章 日本を焼き尽くす砲台
第6章 水爆の海
第7章 「南洋帰り」の戦後
著者等紹介
井上亮[イノウエマコト]
1961年大阪生まれ。86年日本経済新聞社に入社。社会部で警視庁、法務省、宮内庁などを担当。現在、編集委員(皇室、近現代史担当)。元宮内庁長官の「富田メモ」報道で2006年度新聞協会賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
skunk_c
36
著者は日経のベテラン記者なだけに、そつなくまとめられ、とても読みやすかった。そして内容はこのあまり光を当てられない地域についての基礎知識を十分に与えてくれる。当然太平洋戦争時のことについての記載が多くなるが、それ以前の人々の生活や日本支配下の重層的差別構造、核実験場としての現実なども視野に入れ、社会のありように踏み込んでいるのは『硫黄島』に通じる視点。沖縄との関わりの深さについては冒頭から指摘がある。摩文仁の丘の平和の礎に、サイパンで亡くなった沖縄出身者の名が刻まれていることを思い出した。良書です。2019/02/26
おかむら
34
戦前日本に統治されてた時代が中心です。まあとにかく知らないことばかり。彼の地がなんとなく親日傾向らしいとは知ってたけど、なんか複雑な思いに。酷いよ日本軍のせいで。ていうか欧米列強も酷いわ。ミクロネシアの人々の受難の歴史。そして現地の人のみならず、戦争中は移民してきた民間人の日本人(沖縄県民多し)と朝鮮人(連れてこられた)もかなりいたのだ。日本にとっては黒歴史だけど知っとかなきゃならんこと。あと戦後のビキニ環礁での米の水爆実験、そういうことがあったのは知ってたけどそんな回数やってたとは! 驚愕!2015/09/21
とよぽん
22
平凡社新書783。とても貴重な本だと思う。太平洋戦争、という名前の戦争の「中身」を改めて知ることができた。日本は満州でつまづき南洋で奈落に落ちた。南洋群島は1914年頃から日本が植民地同然に支配し、「海の生命線」と呼ばれていた。この本で、統治の実態を知ることができたし、現地の島民や沖縄からの移民、朝鮮人が軍属でもないのに、捨て石として戦争に巻き込まれたことがよく分かった。グアムやサイパンなどの南の島に、気安く旅行してはいけない。少なくとも、旅行先の国や地域の歴史を知らないで行くことは、ダメだと思う。2018/03/10
Akihiro Nishio
20
オセアニア本6冊目。昨年から待っていたオセアニア渡航は、今年断念となったのだが本は読了。日本の南進論、第1次大戦後の委任統治時代、戦中の領土化時代、そして激しい地上戦、戦後のアメリカのよる動物園政策を時系列に追いかける。文章は章ごとに安定してなくて、新聞記者らしく正義感をかざしてみたり、地上戦の描写には熱が入ってみたり、客観的な資料に参照して組み立てた章もあれば、住民の声に多くを依拠する章もある。もう少し全体を通した軸があれば良いと思うのだが。しかし、これら異なる時代を1冊の本で貫いたことには価値がある。2021/03/22
aloha0307
18
太平洋戦争敗戦までの30年間 日本はミクロネシア:南洋諸島を委託統治していた事実すら、本書名如く日々忘却されてはいないだろうか(現在ではリゾート地、ダイビングスポットというイメージでしょう)。通史的にこの地域の重要性&実際にあった凄まじい悲劇を知りました。数十年前奥さんと行ったサイパン バンザイ・クリフと、上空の雲ひとつ無い空と海の深い碧さを思い出すと、本書に接した今、厳粛かつ哀悼の念で身が引締まる思いです。2020/05/09