内容説明
ファシズム、ナチズム、スターリニズムを、一括りに“全体主義”と呼ぶことは、いったい何を隠蔽することになるのだろうか。二十世紀の論争史を繙きながら、玉虫色に姿を変える“全体主義”の概念と、その背景、そして知識人たちの生きざまを描く。二十世紀を読み解くカギは、“全体主義”にある。
目次
全面戦争から全体主義へ
ローマからベルリンへ―全体主義の起源
パリからニューヨークへ―亡命者と反ファシスト
第二次世界大戦直前
反ファシズムとスターリニズム―知識人の反全体主義
反全体主義と反共産主義―冷戦
起源、機能、イデオロギー―概念から理論へ
ベルリンからバークレーへ―全体主義の凋落
全体主義と現実の社会主義
パリに復帰する
一九八九年以後、曖昧な復活
ナチズムとスターリニズム
著者等紹介
トラヴェルソ,エンツォ[トラヴェルソ,エンツォ][Traverso,Enzo]
1957年イタリア・ピエモンテ州ガヴィに生まれる。ジェノヴァ大学卒業(現代史学)。85年からパリに在住し、現在、アミアンのピカルディー大学、パリ社会科学高等研究院で教鞭を執る
柱本元彦[ハシラモトモトヒコ]
1961年大阪生まれ。京都大学大学院博士後期課程修了(イタリア文学イタリア語学)。ナポリ東洋大学講師などを経て現在は京都在住。大学非常勤講師、翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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さえきかずひこ
20
1923〜1989年のあいだに"全体主義"という言葉がヨーロッパおよび北アメリカのどのような文脈で、どのように扱われてきたか、という言説史を描くことを通じて、20世紀という時代が熱戦と冷戦に翻弄された戦争の100年であることを映し出す一冊。訳文がとても良く、読み進めるのにほとんど苦労しなかった点は特筆したい。著者のあとがき、訳者のあとがきも本文理解にすこぶる役立つので、適宜参照しながら読み進めると吉かと思われる。ソ連、イタリア、ドイツの20世紀史に関心のある方にオススメします!イタリア語版からの翻訳です。2019/05/11
さきん
18
ファシズムとスターリズムに共通する点を浮彫りにして全体主義と表現し始めたが、時代によって全体主義のウェイトが変わってくることを描写。今だと北朝鮮に対してつかう感じか。2017/12/22
masabi
17
全体主義というナチス・ドイツやスターリニズムといったあるイメージを彷彿とさせるが実際に何を指すのかが不明瞭となってしまった。ついに戦後と冷戦期には西洋諸国のイデオロギーの正当化に用いられるまでになる。全体主義はもはや流行ではなくなったが、我々が20世紀を理解するため過去を理解するためになくてはならない概念であり続けている。2014/11/29
pen
14
全体主義というと、ファシズム、ナチズム、スターリニズムなど恐ろしいものと漠然と思っていた。その捉えは大体間違っていないだろうが、本書の肝はそこではない。ナチスは全体主義を批判していたこと、30年代~40年代はファシズム批判のための用語であって多くの知識人はスターリニズムに寛容だったこと、冷戦時代になると一転してスターリニズム批判のために全体主義を結びつけるようになったこと、キューバ革命やベトナム戦争など帝国的・植民地的な秩序を打倒するための動きを抑圧するために「全体主義」がプロパガンダ的に使われたこと。→2017/08/08
Kazuo
14
全体主義について、これまでされてきた議論を網羅的に解説する。全体主義は法治国家の対極にある統治システムであり、階級と身分のヒエラルキーが消滅した、近代民主主義時代の倒錯的産物なのである、と分析する。ポパー、アーレント、ルカーチ、バーリンらの全体主義に対抗する思想も紹介される。ただし、全体主義的な政治集団(ギリシア「黄金の夜明け」、自民党「第二次安倍政権」等)が支持を得る理由については言及がない。私案では、短期の安心を得るために個人の自由を手放す人々は、多数存在するということではないか。2017/08/05