内容説明
アイルランドは、なぜ「ケルトと妖精の島」と呼ばれるのか?事実、赤ん坊や女性が妖精と入れ替わる「取り替え子」の伝承を信じて自分の妻を焼き殺す事件が、一九世紀末に発生している。幻視的な詩人W.B.イェイツ、『ドラキュラ』のブラム・ストーカー、世紀末の文学者オスカー・ワイルド、小泉八雲ことラフカディオ・ハーン、そして、現代文学の高峰ジェイムズ・ジョイス。一九世紀から現代に連なる「想像力のネットワーク」を手掛かりにして、妖精の正体に迫る斬新な試み。
目次
序章 「妖精とケルトの国」と呼ばれて
第1章 ブリジット・クリアリー焼殺事件
第2章 イェイツとハイド―文学と民俗学と
第3章 ブラム・ストーカー―吸血鬼の顔を持つ男
第4章 オスカー・ワイルド―帝都ロンドンに跳梁する快楽の妖精
第5章 ラフカディオ・ハーン―クレオール化する民話、グローバルな民話
終章 ジェームズ・ジョイス―もう妖精は見えない
著者等紹介
下楠昌哉[シモクスマサヤ]
1968年東京都生まれ。静岡文化芸術大学助教授(英語圏文学)。文学博士。上智大学大学院博士後期課程修了。1995年ユニヴァーシティ・カレッジ・ダブリン留学時に、全アイルランド大学柔道選手権65kg以下級優勝
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感想・レビュー
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rinakko
5
アイルランドとケルトの誤ったイメージ連鎖は何故起ったか…と、まずその経緯をわかりやすく説いている。「大陸のケルト」「島のケルト」という分類が最早違うと。そこを踏まえた上で、“アイルランドという土地に源泉を持つ想像力が、十九世紀末の同時期に世界各地でネットワークを形成して共鳴”していた現象を紹介し、文芸復興運動等にも触れつつ解明していく。イェイツやブラム・ストーカー、オスカー・ワイルド…というアイルランド縁の作家らの作品に、「取り替え子(チェンジリング)」のモチーフをどう見出せるのか…。すこぶる面白かった。2020/01/29
Edo Valens
3
アイルランドとその想像力の文学の話。今まで語られてきた「ケルトだから」というステレオタイプ化から抜け出して、どうして民話がここまで力を持ったのか、という所からアイルランドの文学を捉えなおす試み。キャラクター化された妖精でなく、民衆の中に息づいていた「恐ろしい」妖精に関しても言及される。中でも『吸血鬼ドラキュラ』や『ドリアン・グレイの肖像』を「取り替え子の物語」で読み解いていく過程はとてもスリリング。言及される参考文献も多く、妖精や吸血鬼のような想像力の文学が好きな人はきっと読みたい本が増えそう。2014/11/18
渋江照彦
3
チェンジリングを手掛かりにして、文学史を紐解いて行くとても面白い本であります。ドラキュラをチェンジリングで解き明かして行く過程は意外で驚きましたが、確かにそうも考えられるなぁと思ったりしておりました。序章でアイルランドに関しての基本事項もしっかりと確認されており、アイルランドの事を良く知らない人にも親切な設計になっています。アイルランド文学史、ひいてはアイルランド入門としてもうってつけの本なのではないでしょうか。2014/10/10
saba
1
面白かった!アイルランド=ケルト、アイルランド=妖精の国とかっていうのはある種の装置であることは理解しつつ、それでもアイルランドが好きだけれど、その源流には英国からの苛烈な搾取弾圧や差別があったからこそ生まれ興隆したという論には首肯。取り替え子は現代には現れない…(遠野物語の神隠し等の伝承によく似ている)。でもやっぱり何か勝手にエモいものを感じてしまう、イェイツにもボノの声にも、カートゥーンサルーンのアニメにも。ベンバルベンに行きたい。2021/07/15
あんず
1
アイルランドの妖精に興味が沸き読みました。妖精と言うと羽のあるティンカーベルの様な愛らしい印象しかなかったけれど、口頭で引き継がれる民話、人の心の拠り所に潜む妖怪、とても深いものだと知りました。本書で紹介されるアイルランドの文学も興味深い。2013/03/16