出版社内容情報
「その者は、光をまとって書院の隅に立っていた」──。古より伝わる本に記された「羽あるもの」をめぐる奇妙な冒険を、静かな筆致で描き出す。吉田篤弘小説世界の新境地。
内容説明
夜伽一卷。いにしえより伝え聞く羽あるものをめぐる綺譚。
著者等紹介
吉田篤弘[ヨシダアツヒロ]
1962年東京生まれ。小説を執筆するかたわら、「クラフト・エヴィング商會」名義による著作と装幀の仕事を手がけている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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KAZOO
108
吉田さんの非常に珍しいというか初めての中世もの(あるいは平安時代)作品集です。短編連作で読んでいてゆったりとした気持ちにさせてくれます。語り手と和尚、野狐が中心人物です。中島敦の「文字禍」をイメージさせる作品もあります。また新潮社の宣伝紙の「波」に連載されている近藤ようこさんの絵で原作が梨木香歩さんの「家守綺譚」を思い出させてくれます。楽しめました。2025/02/04
けんとまん1007
74
静謐な時間・空間がここにある。夜伽話という言葉がフィットしている。自分のとっての羽は何だろう?時間が流れる。思いがつながる。その先にあるのは・・・その根底にあるのは・・・。それを考える。2024/03/20
Ikutan
64
『文字は目に見えるものではありますが、文字が指し示す物ごとは、ときに、見えざるものを含みます。文字は見えるものと見えざるものの架け橋であり、それゆえ、双方にその身を委ねることができるのです』今回の吉田さんはいつもと異なる幻想的な内容。庵でわたくしが見た、光を纏った青年。冥界と現世の間をさまよう。和尚に尋ねれば野狐がこたえを知っているという。現れた文字は体の芯まで染みわたり、野狐の声音と類似した声となって囁く「羽あるものを」。時代も不明で、掴み所もないけれど、おとぎ話のような心地のよい不思議なお話でした。2024/04/11
nico🐬波待ち中
63
夜伽一巻(ひとまき)。今までの吉田作品とは一味違う読み物でありながら、やはり吉田作品らしい夜の静けさの漂う物語。羽あるものにまつわる記述を筆写し、羽あるものに憧れを抱く"わたくし"と野狐・和尚の3人による、いにしえの物語が静かに進んでいく。いずれ来るであろう戦の世から逆行し辿り着くは、嵐の前の静けさなのか。お伽噺のようでありながらも現代への警告ともとれる描写が続いていく。羽あるものの記述を探し求める"わたくし"は、いずれ羽を取り戻し夜空へ飛び立つことができるだろうか。夜伽シリーズの先が楽しみで仕方ない。2024/08/04
天の川
61
いつもの吉田作品とは異なる、夜の闇と靄が読み手を包むような感覚の連作短編集。”仮想的な平行世界”とのことだが、設定は「書院」「争い」などから室町時代後期か。夜伽に話を語った母をもち、見えないものが見える”わたくし”を訪ね来る惑う者たちに、黙蓮寺の和尚、野狐と手を差し伸べる『羽あるもの』『その花の香り』『虹喰い』。そして『夕舟』で起きた出来事から『彼方より』で野狐が来た”彼方”を知り、読み手も”わたくし”や和尚と共に新たな一歩を踏み出すことになる。静謐な風情と時の流れを堪能する美しい物語だ。二巻が楽しみ。2024/03/06