出版社内容情報
内面に渦巻く暴力性と、冷え冷えとしたニヒリズムを個人の問題としてでなく、近代の病として世に問うた三島由紀夫。死後50年、その内なる叫びを掬い取った決定的評伝。
内容説明
自らの内面に渦巻く暴力性、精神を蝕むニヒリズムを近代という時代の病、人間存在の闇として問うた作家の実像。『豊饒の海』の完成と自死はなぜ同時に計画されたのか。没後50年、三島研究の第一人者が満を持して世に問う決定的評伝。その内なる声を掬い取り、自刃の謎を解き明かす。
目次
1(虚無とセバスチャン・コンプレックス;「詩を書く少年」の時代;小説家・三島由紀夫の誕生前夜 ほか)
2(『禁色』と『近代能楽集』;『アポロの杯』から『沈める滝』まで;反‐戦後小説/芸術家小説―『金閣寺』 ほか)
3(全体小説という理念―『豊饒の海』前夜;日本の近代―『春の雪』;祖国―『奔馬』 ほか)
著者等紹介
井上隆史[イノウエタカシ]
1963年生まれ。東京大学文学部卒業、同大学院博士課程中退。現在、白百合女子大学文学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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パトラッシュ
41
文学者が生きた時代にどんな影響を受けて作品を書いたかは評伝の重要なテーマだ。読者にとって三島由紀夫とは謎の自裁を遂げた不可解な存在だが、作家としては昭和という時代に共に生きて成功した人との印象だった。しかし、実際の三島は同時代と苦しい戦いを続けニヒリズムに陥るほど疲弊していた事実を明らかにする。暴流に流されまいと必死に抗う姿は、村松剛や奥野健男などの伝記で形作られてきたイメージとは大きく異なる。草稿や創作ノートまで調べ尽くした研究家の手になるだけに、その論証は鮮やかだ。もう一度三島を通じて昭和を考えたい。2020/12/21
ぐうぐう
35
没後五十年だった昨年、三島由紀夫関連の書籍がいくか刊行され、その中には評論も多かったが、本書もまた読み応えのある評伝となっている。著者の井上隆史は、「虚無」「セバスチャン・コンプレックス」「全体小説」という三つを焦点にして、三島由紀夫という存在を読み解こうとする。『仮面の告白』が象徴するように、プライベートな経験が三島の小説には反映されていると同時に、井上は三島が生きた時代もそこには如実に描かれていると説く。時代への抗い、つまり時代との戦いにそれは映る。(つづく)2021/09/08
chiro
4
三島を追い続けてきたであろう著者の三島没後50年を起として書かれた評伝。三島の跡を詳細に追いながらその周辺についても事実を積み上げながら語られているその足跡はすでに語られているものだけでない新たな三島の側面を知らしめてくれる。三島が当時日本の行く末を如何に案じ、そして周囲が如何にそのことに鈍感であったかという事実はおそらく今の時代においても同様の現象なのだと思うとき、今三島の役を任じている人物が思い浮かばないことに危うさを感じてしまう。2020/12/06
Yasuyuki Kobayashi
2
三島由紀夫全作品を読みときながら、 彼が目指そうとしていた世界を検証 していく論文。 三島文学を学ぶ絶好のテキスト。2021/01/19