出版社内容情報
正統イスラームの立場から哲学を批判したガザーリーの名著。理性の限界を説きスーフィーへと転回を予示する。
内容説明
ヘレニズム哲学の深奥を極めた上で、人格的唯一神への帰依を説くイスラーム神学の立場から、哲学の不信仰を批判するガザーリーの代表的著作。西洋思想とイスラームとの最も深い亀裂が浮き彫りになる。
目次
第1部(世界の無始性についての彼らの説の批判;世界・時間・運動の無終性についての彼らの説の批判;神は世界の行為者・造物主であり、世界はその被造物・行為である、との彼らの説の欺瞞性、またそれは彼らにとっては比喩的表現であり、文字通りの真実ではないことの証明;世界の造物主の存在を彼らは証明しえないことの説明;神は唯一であること、互いに他の原因とならない二つの必然的存在者を想定することはできないこと、これらを彼らは証明できないことの説明 ほか)
第2部 自然学(因果律と奇跡について;人間の霊魂は空間を占めない自立的な霊的実体であること(後略)
人間の霊魂は生成後は消滅不可能であり、それは永続的で消滅は考えられない、との彼らの説の批判
肉体の復活(ba‘th)、肉体に霊が返されること、物質的な地獄の存在(後略))
著者等紹介
中村廣治郎[ナカムラコウジロウ]
1936年生まれ。ハーヴァード大学大学院博士課程修了。哲学博士(Pd.D.)。東京大学・桜美林大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
52
アラブ圏イスラム哲学の発展に”事実上終止符を打った”と言われる哲学批判の書。哲学者が唱える世界の永遠性や「神」の知、因果説などについて問答の形でその矛盾を指摘してゆく構成。ギリシア哲学の流れを汲むイスラム哲学は新プラトン主義的流出体系をとり、万物の原因として「一者」(神)を観照します。この体系は一神教とそれなりに親和性があると思っていたのですが、作者はこの神の、ただ「自己のみを知る」という自存的なあり方を神の全知性・人格性の否定として何度も指摘していて、その、全能の人格神を求める真摯さが印象に残りました。2021/01/18
有沢翔治@文芸同人誌配布中
10
ギリシャの知識人がイラクに亡命していく。彼らはアリストテレス、プラトンなどの哲学・思想を中東世界へと伝播させる。知識が広まるのはいいことだが、ギリシャの世界観はコーランと衝突し始めた。そのような中で、イブン=スィーナーなどがコーランを合理的に解釈しようとする。アル=ガザーリーは反発を始める。http://blog.livedoor.jp/shoji_arisawa/archives/51504153.html2019/03/12
Nemorální lid
4
『一者から知性、知性から霊魂、霊魂から自然へ、という枠組みの中で、すべての存在を説明しようとする新プラトン主義的流出論体系』(解 p.368)は、その哲学的解釈の中に自由意志を含め、本来のコーランに見えたる神の性格から離れてしまっていた。ガザーリーはこうした哲学者の神学観を『世界の永遠性、神の個物知の否定、および終末における人間の肉体の復活の否定』(解 p.375)の項目で批判する。彼の哲学批判は、理性の代弁者、乃至は理性批判でもある。理性によって信仰は擁立され得ぬ以上、彼はスーフィズムに移ったのだろう。2019/01/14