出版社内容情報
ラスコーリニコフを導いた「神の意志」とは何か? 繰り返される死のモチーフの正体とは? ドストエフスキー研究の第一人者が会話や情景描写を読み解き、『罪と罰』の謎に迫る。
内容説明
ロシア文学を代表する小説「罪と罰」をドストエフスキー研究の第一人者が読み解く。登場人物に重ねあわされる聖書のイメージ、日付や名前などのディテールに込められた意図、作者が仕組んだ「二重構造」のプロット…。死に支配された物語を丹念にひもとき、ドストエフスキーが残した謎に挑む。
目次
序論(一八六五‐六六年、『罪と罰』の時代;小説の誕生;『罪と罰』の起源)
本論(屋根裏部屋の「神」;引き裂かれたもの;ナポレオン主義または母殺し;棺から甦る;バッカナリアと対話;運命の岐路)
エピローグ 愛と甦り
著者等紹介
亀山郁夫[カメヤマイクオ]
1949年、栃木県生まれ。ロシア文学者、名古屋外国語大学学長。東京外国語大学外国語学部卒業、東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。天理大学、同志社大学を経て、1990年より東京外国語大学外国語学部助教授、教授、同大学学長を歴任。2013年より現職(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
111
あれだけ殺人を正当化する傲慢な論理をこね上げながら、恐怖と後悔に打ちのめされて譫妄状態に陥ったあげく女にほだされて自首してしまうラスコーリニコフは、犯罪者としては紙屑の如く貧弱だ。優しく信仰篤く家族や友人を大切にする普通の人間なのが、世界の矛盾が凝縮された19世紀ロシアに生まれたが故に悲劇的な運命を背負わされたのだ。理性と絶望に引き裂かれていた時期のドストエフスキーだからこそ、『罪と罰』を書けたとする著者の意見には全面的に賛同する。神が人を見いだす道を必死に探る姿が、長く読まれてきた最大の理由なのだから。2023/07/03
amanon
9
ついつい手に取ってしまう亀井氏のドストエフスキー論(笑)。氏の論調のさることながら、本書を通して垣間見えてくる『罪と罰』の圧倒的な物語世界の凄まじさを改めて痛感。そして、その執筆背景となった、極度にまで追い込まれたドストエフスキーの状況に、今更ながらに愕然とさせられる。ここまで追い込まれなければ、あの傑作は書かれることはなかったのか…と。また、主人公ラスコーリニコフと周囲の人々が織りなす、複雑かつ象徴的な関係性には改めて強い興味を喚起させられる。とりわけスヴィドリガイロフの人間性は探求の余地あり。2024/03/02
しおり
4
研究者が一冊の本を一冊をかけて読み解く贅沢な本。ドストエフスキーそこまで考えてたのかなと思うことがしばしば。聖書との関係が深いことはよくわかった。ナポレオン主義から始まるラスコーリニコフの怖ろしいまでの傲慢さは神が与えたいくつもの恩寵を無視するに至る。それと同時に彼は悪魔のような偶然にも支えられる。黙過というテーマは他の作品にも関わっていると思った。悪魔の数字と名前との一致ははっとさせられた。彼は真の意味で反省しているわけではないが、立ち割られた者として愛を完全に失ったわけではない。罪と罰また読みたくなる2025/04/06
sa10b52
3
せっかく亀山氏の新訳を読んだのでその解説本を。文学をただ物語として楽しんでいるだけの私は、これだけの解釈・視点を提示されると読書って難しいなーという感想を持ってしまう。それでも楽しく読めればいいし、別の視点は詳しい人に示してもらえばよい。そういう意味で様々な解釈を楽しめた。そうした奥深さも『罪と罰』の魅力なのだろう。時代考証や宗教の理解は必要。批評なんてできない自分だけどソーニャの『実践的な愛』という側面には気づいていて、筆者と同じ理解に少なからず至れていたのはうれしい。2023/09/04
ゴリラ爺
2
江川卓が提示したパラノイア的な深読みに首を突っ込んだり、ネットの考察を引いてきたりと、やりたい放題である。棺桶の隠喩とラザロの復活についてそこまで考えたことがなかったので勉強になった。マルメラードフがソーニャの処女を上司に献上した説も初見だが、採用すると確かに読みが広がる。事務官たちの間で娘が交換されるこの図式に見覚えがあると思ったらカフカの『城』だ。ニャはソーニャのニャ。2025/02/05