内容説明
蔦屋重三郎とはなにものか?本書はこの問いに、この人物が何のためにどんな出版物をつくって売ったか、をもって答える。するとすぐさま消し去られるのは、体制に批判的な先進的文化人といったイメージであり、見えてくるのは、吉原出自の宣伝巧者、堅い商売に専心し、出版を組み込んで遊ぶ戯作文芸の仕掛けを利用して、失敗知らずの本づくりをたくらむ商人の姿である。蔦重を知り、この時代の文化・文学の基底を知るに必読の名著を、コンパクトな新版で。
目次
1 吉原の本屋蔦屋重三郎
2 天明期狂歌・戯作壇の形成と狂歌師蔦唐丸
3 戯作と蔦屋重三郎
4 蔦重の戯作出版とその流通
5 狂歌界の動向と蔦屋重三郎
6 絵本と浮世絵
7 寛政改革とその後
著者等紹介
鈴木俊幸[スズキトシユキ]
1956年、北海道生まれ。中央大学大学院博士課程満期退学。現在、中央大学文学部教授。専攻、書籍文化史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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がらくたどん
55
近世の書籍文化史の頼れる柱である著者の蔦重概観。去年めでたく復刊し借りものじゃないからマーカー引き放題♪とホクホクして読む。蔦重から近世文芸を読み解くスリリングな入門書。蔦重の「江戸っ子の神髄」「体制に迎合しない最先端」のイメージを次々に裏返し手堅い商売と新規の出版に繋がる文芸の仕掛けの両輪を回した魅力的な商売人の姿を描き出す。吉原の血縁・地縁を生かし郭内の貸本屋から出発した蔦重は吉原のタウン誌「吉原細見」で評判を取るが、それでも彼は郭内の本屋だった。蔦重はどうして廓外に進出し「江戸の本屋」になれたのか?2025/02/09
Y2K☮
36
吉原の貸本屋に始まり、同所の細見(ガイドブック)出版で名を売る。吉原を宣伝しつつ己自身もPR。宣伝はフェアではなく入銀次第。抜け目ない。往来物(手習い本)みたいに薄利だが息の長い本に目を付ける堅実さ。分かる。バーゲンブックで一番売れるのは料理などの実用書だから。「通」の最先端を担う本屋というイメージ戦略。名のある狂歌師や戯作者を接待してコネを作り、蔦重自身も狂歌を嗜む。粋で挑発的な黄表紙や洒落本の出版で時の人になり、寛政の改革後は儒学書などのお堅い本のブームにしれっと乗っかる。この柔軟さ。もっと知りたい。2017/06/23
Y2K☮
35
2年後の大河ドラマで蔦重はどう描かれるのか。倹約を強いるお上に「うがち」と「しゃらくせえ」で抗い、華やかな作品を多数創り、時代の最先端を突き進んだ前衛的プロデューサーという平易なヒーロー像に要約されてしまうかもしれない。そういう一面もあるけど真の凄みは手堅さ。出自を活かした吉原の広告塔という立ち位置が本屋稼業の出発点だし、利益率こそ低いが息の長い商材である往来物(手習い本)を重んじた。寛政の改革が始まればしっかり順応し、お堅い儒学書なども扱う。それらで売り上げを確保したうえでの写楽。大人の戦い方を学んだ。2023/07/15
Y2K☮
31
大河ドラマを毎週視聴するのはいつ以来か。「べらぼう」の該当エピソードを見てから読むとより頭に入るし、見る前の予習にも役立つ一冊。いずれ蔦重の手堅い商売人という一面にも光が当たるのかな。ただ寛政の改革で大ダメージを被った後、書物問屋としての仕事を広げていく路線変更を権力に屈したとか守りに入ったとは思わぬ。歳とキャリアを重ねた彼の嗜好が草紙などの一時的な流行りものから離れ、大きくは売れないし安くもないけど長く版を重ねる良質な学術書へ移るのは自然だろう。ところで西村屋与八を西村まさ彦が演じるのがちょっとジワる。2025/04/09
ようはん
19
大河ドラマの予習にて図書館から借りて読む。蔦屋重三郎の生涯や当時の出版文化に関してはよく知らないので難解な点が多く流し読みせざるを得ない場面はいくらかあったものの、蔦屋重三郎に関し予習になる所は多かった。商才に秀でた人物ではあるが、自身も狂歌を作る文化人であり数多くの文化人を集めるコミュ力の高さも強みであったと感じる。2025/01/01