内容説明
儒学を宇宙論・形而上学へと集大成し、東アジアの思想と社会に大きな影響を与えた朱子。その生涯を聖人君子としてではなく、歴史的現実のなかで悩み苦しみ、喜び悲しむ「人間・朱子」として描く。
目次
第1章 プロローグ
第2章 父母の邦
第3章 杜鵑の声
第4章 氷壷秋月
第5章 長沙への旅
第6章 鉛山鵝湖寺にて
第7章 南康から浙東へ
第8章 身辺雑記
第9章 吾が友
第10章 道学受難劇
第11章 エピローグ
著者等紹介
三浦國雄[ミウラクニオ]
1941年、大阪市生まれ。大阪市立大学文学部中国学科卒、京都大学人文科学研究所助手、東北大学助教授、大阪市立大学教授を経て、大東文化大学文学部中国学科教授、専攻、中国思想史・東アジア比較文化論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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isao_key
12
元は講談社『人類の知的遺産19朱子』第2部を加筆修正して改めて文庫化したもの。南宋ー日本の平安から鎌倉初期ー時代の人物について書かれたとは思えないほど、具体的なエピソードが豊富で、人間朱熹を浮かび上がらせている。本書は評伝であり、朱子学の理論については述べていない。その点については同じく三浦先生が書かれた『「朱子語類」抄』などにあたる必要がある。本書旧版の伝記部分がソウル大学教授により韓国語に訳され、その業績を絶賛している。これほど優れた評伝が日本人によって書かれたことに誇りを持ち、感謝と敬意を表したい。2016/04/16
きさらぎ
8
再読。「むしろ彼は、人間的矛盾を一杯背負いこんだ人ではやかっただろうか。彼の激しい聖人渇仰と死の直前まで仕事の手を休めなかった勉励ぶりは、みずからの不完全さに対する深い痛覚に発しているように思えてならない」著者の言葉が沁みる。感情の起伏が激しく、時に絶望しながらも背骨は強靭でユーモアを失わなかったという。多病に苦しんだが、門人が気をつかって質問にこないとなると寝室に呼び集めて叱り飛ばした。そんな人間朱熹はとても慕わしい。2019/05/29
はるたろうQQ
2
学生時代、コピー機の前で著者を見掛けたが、半世紀近く経ってやっと著書を読んだ。朱子が若い頃、禅や道教に耽溺していたという。北宋滅亡直後に生まれ、中華意識を持ちつつも金に圧迫された現実を生きるには、依って立つ世界を説明できる原理が必要だったのだろう。儒教は科挙によって単なる試験科目になってしまった。基本原理から古典を再解釈し集大成したのが朱子である。思想に対し外的な事情がどの程度影響を及ぼすかは分からないが、私が著者を直接見たことが本書を読む大きな契機になったのだから、こういう妄想も悪くないのかもしれない。2021/09/08
きさらぎ
2
朱子の伝記。人間朱子の一代記で、思想的な面は軽くしか触れられていない。多くの門弟や友人、同僚、そして豊富な敵に囲まれた71年の生涯には、膨大な人物との出会いと別れがあった。人名が大量に出てくるので読み進むのが大変だったりもする。地方官としては使命感に燃えて奔走し、学者としては真理の追究に没頭し、弟子の教育と切磋琢磨に力を尽くした。剛直で議論好きで手紙魔で相当に感情の起伏が激しかったそうだが、客と会わない人などどうして過ごしているのか判らないまで言っていて、何とも人懐っこく情熱的で、魅力的だなあと思った。2015/05/20
鴨の入れ首
1
中国南宋の大儒学者・朱子(朱熹)の評伝です。朱子学そのものよりも、人間朱熹の生涯と人物像を明らかにすることに重きを置いており、その点で比較的読みやすかったです。理想と現実のどうしようもない齟齬に苦闘し、多病に苦しみ、割とひっそりと世を去った朱熹が、その後の東アジア世界に絶大な影響を及ぼすとは誰が予想しえたでしょうか?朱子学に詳しくなくても読め、大変興味深く面白かったです。2024/10/08