内容説明
近代の思想史的系譜を探る。幕末から明治期の百姓一揆や新興宗教の史料を博捜し、日本の近代化を追究した画期的労作。
目次
第1篇 民衆思想の展開(日本の近代化と民衆思想;民衆道徳とイデオロギー編成;「世直し」の論理の系譜―丸山教を中心に)
第2篇 民衆闘争の思想(民衆蜂起の世界像―百姓一揆の思想史的意味その1;民衆蜂起の意識過程―百姓一揆の思想史的意味その2)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
coolflat
24
勤勉、倹約、質素、孝行など、近代日本社会における日常的規範、すなわち通俗道徳(貧乏で不幸な人間は自身の努力が足りないからだという観念。権力者を免責する効果をもつ。今日で言う自己責任論)が、いかに歴史的に形成されてきたかが示されている。著者によれば、17世紀の終わりから18世紀初頭にかけての時期、民衆の意識に大きな変化が生じた。江戸、京都、大坂といった大都市の周辺に始まったこの変化は、やがて徳川時代の終わりには全国に広まり、1880年代(松方デフレ)には「最底辺の民衆」の間にも広く浸透するものとなっていた。2020/09/10
かんがく
18
「民衆史」というジャンルを確立した研究者の名著。幕末維新期の民衆思想に着目し、心学や報徳仕法などの勤勉を重視する通俗道徳、ミロク信仰や出口なおなどの新宗教、一揆や打ちこわしなどの闘争についての丁寧な史料読解が見られる。民衆の敵を排除する役割を持っていた江戸幕府と、民衆の敵と判断された新政府という対比が面白かった。民衆の歌に着目するなど、歴史研究の態度としても学ぶところが多い。2020/03/05
Eiki Natori
9
難解な本であるが読了。 明治から令和まで日本人に深く根付いた通俗道徳。 勤勉、倹約、質素、孝行など。 貧しいものは努力が足りないからだという自己責任論。生活保護や水俣病患者に対して石を投げつける日本社会の根底の思想が、どのように生まれ、どのように形成されてきたかが記載されている。 土着した通俗道徳は、どんなに政治が失敗しようとも、貧富の格差が生まれようとも、国民の不満には繋がらない。全てが努力不足と自己責任論と片付けられるのだ。記載の60年安保闘争が所得倍増計画にかき消されたことが全てだろう。2021/11/17
まどの一哉
7
30代半ばに読んでおおいに感心した名著を30年ぶりに再読。さすがに面白かった。 石田梅岩や二宮尊徳の提唱するのは勤勉・倹約・正直などの通俗道徳なのに、それがなぜかくも日本社会思想史の上で重要な役割を果たしているのか。かねがね疑問だった。博打や放蕩に人間は抗えないもので、村を破滅から守るためにはこのような強力な道徳的戒めしかない。 2022/09/19
てれまこし
7
勤勉、倹約、謙譲などといった通俗道徳は、近世中期に貨幣経済の浸透に伴い増えた荒村を立て直すために梅岩や尊徳らが普及した。だとすると、ウェーバーの新教倫理に見られる主体性に近いものが日本にも生まれていたことになる。しかし、安丸は、こうした通俗道徳が既存の封建秩序を問題化する方向性を持っておらず、むしろ封建経済から資本主義体制へ移行において上から利用されたことも指摘している。すなわち、フーコーの主体性批判に見られるような現象が日本でもまた近世から近代にかけて見られた。主体性の問題はどうも西洋だけの話じゃない。2019/09/12
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