内容説明
ハイデッガーは果たして宿敵ニーチェを読み破ることができたか?「最後の形而上学者」の偉大と限界、栄光と挫折とを、比類ない精確さと執拗さをもって解き明かした名講義の定評ある翻訳。
目次
1 芸術としての力への意志(形而上学的思索者としてのニーチェ;『力への意志』という書物;『本堂』のための計画と下描き;力への意志と永遠回帰と価値転倒の統一性 ほか)
2 同じものの永遠なる回帰(ニーチェの形而上学の根本思想としての永遠回帰の教え;回帰説の成立;回帰説についてのニーチェの最初の伝達;『Incipit tragoedia』 ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
踊る猫
30
意外と(失礼)読みやすい! と驚く。むろん翻訳者のグッジョブによるもの。ニーチェを(そしてハイデガーも)私は誤解/誤読していたようだ。これまでの価値観に真っ向から異を唱える、ニヒリストとしてのニーチェを想定していたのだがここで語られるニーチェは単なる概念の破壊王ではなく、なんでもありの世界/人生を、その宿命を受け容れて生き抜くタフな個人として君臨しているように思ったのだ。ニーチェは自分自身をも疑うが、「哲学」する姿勢、すなわち疑問を持ち続ける姿勢は一貫している。そんな素朴な男の姿が平明にトレースされている2020/03/23
風に吹かれて
15
『いかなる偉大な思索者も、自分が直接語っている事柄よりも、いつも一躍先んじて根源的に思索する』(p188)が、とりわけまとまった著作は箴言集的にいくつか出版されただけで、本格的な著作の設計図のような草稿を残して精神に異常をきたしてしまったニーチェの思想を読み解くのは生易しいことではない。ハイデッガーはプラトンやカントなどの哲学を参照しつつ残されたニーチェのあらゆる草稿から書き残されていないニーチェの思索を読み取ろうとする。私には意味を捉えることが困難な言葉が続く。➡2020/08/26
またの名
13
本人も解ってるんだか怪しいモゴモゴ呟くだけというよく居る教授のイメージからははるかにかけ離れてる、ハイデガーの明晰な講義の一つ。文章ではガチで書いてくるので簡単には理解できない哲学者が、やはりこちらも表面的な読み易さとは裏腹に根源的に理解するのが容易ではないニーチェの思考を読み解きながら、自身の鋭敏な思考の一端を開示。「いかなる偉大な思索者も、自分が直接的に語っている事柄よりもいつも先んじて根源的に思索する…それゆえ、彼が語らずにいることを語るように試みなくてはならない」。この試みは間違いなく成功してる。2015/12/22
有沢翔治@文芸同人誌配布中
11
「存在と時間」よりは解りやすい。ただしニーチェに加え(あるいはそれ以上に)パルメニデスなど古代ギリシャの哲学者の話が出てくる。古代ギリシャで〈存在〉という言葉がどう使われているかを調べているが、文献学としての価値しか僕は見出せない。 http://blog.livedoor.jp/shoji_arisawa/archives/51505814.html2019/05/30
グスタフ
11
「過去の哲学者について語られた今までの書物は、ヘーゲルの著したものを除いてありふれた哲学史教科書の要約抜粋に過ぎない。」と切り捨てるハイデガー。当然ここでは、ニーチェを要約するのではなく、ニーチェをとおして「存在への問」が語られるのだ。(「存在と時間」とこの書を併読して、漸くそこが理解できてきた。) ニーチェの〈永劫回帰〉や〈力への意志〉を詩的なイメージや、教訓としてとらえるのは間違い。それは、ギリシアから始まる西欧の形而上学との対決をとおして考え抜かれた最高の認識であり、形而上学の終末2013/12/15