内容説明
ヨーロッパ精神史研究の大先達、つねにアクチュアルな思想家=レトリシアン、次々新しくスタートラインを引き直す方法的アマチュア…。よき対話者を得て自在に語り出された〈林達夫的精神〉の形成・遍歴・方法。
目次
1 「洋学事始め」―ひとつのヴァリアンテ
2 わが遍歴時代
3 精神史のポリフォニー的発想
4 わが学問の前哨墓地
5 聖フランチェスコ周辺
6 われらが交遊録
7 500年目のマキアヴェリ
8 平衡感覚としての「俗」
9 顔のない今日の世界―グロテスクについて
10 演劇変相之図―現代演劇の位相
11 世界把握のキイ・メタファーとしてのドラマ
12 教養派?鍛錬派?
13 レトリック・イン・アクション
14 わがヨーロッパ研修旅行
増補 クラルテからアンビギュイテへ
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
呼戯人
17
名文家として名高い著者の珍しい対談本。林達夫も久野収もすでに亡くなり長い時が経つが、しかしこの本のアクチュアリティーは少しも減ずることはない。最終的に精神史の立場からルネサンスを眺めるという視点に到達するまでの林達夫の思想的遍歴が語られる。常に学ぶ人であった林達夫の学問の方法が掘り下げて語られているのが嬉しい。もちろん私などには到底真似のできないものであるが、例えば辞書は逆さにおいて引くなど面白いエピソードがある。何故なら、その方が引くときに効率的であるからである。小技も大技もみなユニークである。2016/11/05
masabi
15
【概要】林達夫と久野収の対談集。【感想】対談の内容をほぼ理解できていないが、独特のおもしろさがある。対談が思出話に終始せずに博覧強記と濃密な経験から来る問答に発展する。しかも、対談の両者が対等に渡り合うのだから寛ぎながらも知的な緊張感が漂ってくると錯覚すら覚えてしまう。かと思えば外国語を読めても日常会話を話せないという本書では比較的親近感を覚える話題が顔を出す。演劇から園芸まで興味関心の広く、こうなれたらなと思わせる対談だった。2018/11/17
パブロ
9
何だよ、この博覧強記という言葉では収まり切れない知識のるつぼ。この80歳と70歳のジジイときたら、柔らかな言葉とは裏腹に、林達夫が鋭い一撃を加えれば、久野収は返す刀で鋭い斬撃を披露する。話の半分も理解できなかった私でも、この壮絶な打ち合いにチンチン縮み上がるよりも、ギンギンになってしまいましたよ。三木清や和辻哲郎、戸坂潤との邂逅。いかにして林達夫は鍛え上げられたのか、という知的興奮は、私ももっと本を読んでいろんなことを吸収したいと思わせてくれる。再読のときは、ちゃんと把握できるような人間になりたいな〜。2013/12/25
がんぞ
5
外交官の家庭で少年時代を欧米で過ごした林、京大哲学左派として戦前に治安維持法で投獄された久野。両者を単純に「左翼」で括れない。同じく終戦まで投獄されて子女もそれぞれ左翼活動の羽仁五郎(死に先んじたスターリン批判により日本共産党と決別の栄誉ももつ)のアジテーション講演が盛況となる左翼への期待(資本主義への不満)が60年安保に沸騰した余韻が残っていた時代。当時、林が大学の講義で「羽仁五郎について」と言うと学生は耳をそばだてた、「雀百まで踊り忘れず」「馬鹿の一つ覚え」「だがこれは褒め言葉なんだ」五郎は聞いて欣喜2015/07/10
NICK
5
明治から戦後にかけて活躍した評論家……というより「知識人」の方が収まりがいいかもしれない、林達夫が久野収と自由に繰り広げた対談を収めた本。当時の知識人たち(三木清や和辻哲郎など)の交友関係から映画や果ては林達夫の専門であるところのヨーロッパ文化の精神など縦横無尽、自由自在のトークがなされている。さすがに話題になる思想家というのはこんにちではほとんど省みられないことが多いが、それでも林達夫の紡ぐ「知」は固定化されることを拒むかのような、縦横無尽の対話が実に誘惑的で面白い。2013/07/25