出版社内容情報
今川氏親の妻・寿桂尼が発給した文書の分析から、戦国大名今川家の当主代行として、また「家」妻として果たした役割とその性格を追究し、「おんな家長」としてのあり方を探る。
内容説明
夫・氏親の晩年には領国統治をたすけ、子・氏輝期には当主代行となった寿桂尼の発給文書が明らかにする妻の役割とは。戦国時代の女性研究の新たなステージとなる意欲作。
目次
はじめに―寿桂尼からみる戦国大名家の妻の役割
第1章 今川氏親に嫁ぐ
第2章 今川家の正妻として
第3章 おんな家長の実像
第4章 庶子義元の擁立
第5章 「大方様」として
第6章 駿府からの引退
著者等紹介
黒田基樹[クロダモトキ]
1965年東京都生まれ。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。博士(日本史学)。専門は日本中世史。現在、駿河台大学教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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鯖
21
病弱な嫡男氏輝に代わり、後で男性家長によって承認される制限付きではあったものの家長権を行使した寿桂尼の生涯を描いた本。発給文書がたくさん。残念ながらデスノートはなかった。今更だけど、義元って寿桂尼の実子じゃないんだよな。それなのに寿桂尼の出した発給文書がいっぱい残ってて、おんな家長たりえたっていうのがすごい。茶々や早川殿の比較もあり、とても面白かった。大学での講義内容も含み、家父長制の根深く、根強い残滓と直面する女子学生の姿を改めて認識されたとのことで、またこういう本を書いてくださるとありがたいなあ…。2021/09/05
MUNEKAZ
19
ときに「おんな戦国大名」とも評される寿桂尼の生涯を、残された史料をもとに描き出す。当主が政務を行えない場合に限り、家長権を代行するが、その決済や保証は永続的なものとされず、のちに男性家長の再保証を必要とする。また軍事・外交面にはタッチしないなど、その権力の在り方と限界は興味深い。書名が「おんな家長」となるのも、あくまで「家」の内部で当主を代行する存在であったことを示すもの。ただ公家の生まれ故の京都との太いパイプや、他家に嫁いだ娘とのつながりなど、今川家のゴッドマザーとしての存在感はかなりのものがある。2021/02/26
Book Lover Mr.Garakuta
17
図書館本:【速読】(一日一書):女でながら戦国の荒波に揉まれた寿桂尼。彼女の生涯を解説した本ですが、男勝りで、凄いなと思いました。寿命が82歳なのは長寿であったと思うし家長としての重圧もあったかもしれないが当時の女性家長の手腕は相当優れていたように思う。他家の男に勝る人であったように思うが。ドラマ等でしかその存在を知らなかったので、読んでいて楽しかったですね。2021/09/10
フランソワーズ
11
大名当主の代行者となった寿桂尼。その政治力については漠然とした認識しかありませんでした。本書は多くの発給文書を取り上げ、考察することで、寿桂尼の力と限界の双方を論証しています。そしてタイトルに関連する〈「家」妻〉という存在とその役割を提示しており、とても興味深いものがありました。また、寿桂尼周辺の人、例えば家臣や女房衆、さらに居所や所領などの知見を得られたことも収穫でした。2021/09/02
kawasaki
10
「女戦国大名」というキャッチフレーズが少々独り歩きしている寿桂尼。近年の中世女性史研究の進展を取り入れ、残された全発給文書の検討を通し、生涯の実際に迫る。男性である家長の対となる「家」の奥向きの統括者(本文内では『「家」妻』という用語を援用、タイトルの「おんな家長」)であり、非常時の家長権代行者であるとともに、自らの領地の主という姿は、なんだかふわっと曖昧なイメージであった「戦国大名の妻」という存在にしっかりした輪郭(単純に「弱くてかわいそうな妻」でも「なんでもできる女王」でもない)を与えてくれる。2021/12/25