出版社内容情報
カフェの若き店長・原田清瀬は、ある日、恋人の松木が怪我をして意識が戻らないと病院から連絡を受ける。松木の部屋を訪れた清瀬は、彼が隠していたノートを見つけたことで、恋人が自分に隠していた秘密を少しずつ知ることに――。「当たり前」に埋もれた声を丁寧に紡ぎ、他者と交わる痛みとその先の希望を描いた物語。
内容説明
新型ウイルスが広まった2020年の夏。カフェの店長を務める29歳の清瀬は、恋人の松木とすれ違いが続いていた。原因は彼の「隠し事」のせいだ。そんなある日、松木が怪我をして意識を失い、病院に運ばれたという連絡を受ける。意識の回復を待つ間、彼の部屋を訪れた清瀬は3冊のノートを見つけた。そこにあったのは、子供のような拙い文字と、無数の手紙の下書きたち。清瀬は、松木とのすれ違いの“本当の理由”を知ることになり…。正しさに消されゆく声を丁寧に紡ぎ、誰かと共に生きる痛みとその先の希望を描いた物語。
著者等紹介
寺地はるな[テラチハルナ]
1977年、佐賀県生まれ。2014年『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞し、デビュー。2020年度の咲くやこの花賞文芸その他部門を受賞。21年『水を縫う』で第9回河合隼雄物語賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
さてさて
940
“新型ウイルスが広まった2020年の夏。彼の「隠し事」が、わたしの世界を大きく変えていく”と、内容紹介にうたわれるこの作品。そこには『意識不明の重体』となって五ヶ月ぶりに再会した男性に隠された真実に向き合っていく清瀬の物語が描かれていました。コロナ禍を極めて自然な描写で作品背景に落とし込むこの作品。”小説内小説”の存在が、物語に思った以上の奥深さを付与していくのを感じるこの作品。寺地はるなさんには珍しい、ミステリーという舞台設定の上に、人の心の機微を細やかに映し取っていく新鮮な読み味の作品だと思いました。2022/10/22
starbro
842
寺地 はるなは、新作中心に読んでいる作家です。 本書は、青春群像劇、中篇のせいか、今回はあまり刺さりませんでした。 https://www.futabasha.co.jp/book/978457524572100000002022/12/09
射手座の天使あきちゃん
734
パーソナルの尊重や多様性を認めることの大切さは知識として十分理解できるのですが、正直に白状するとこの小説になんの面白みも感じられなかった私は読解力に問題があるようです! <(^_^;2024/06/15
bunmei
727
人の奥底に抱える痛みや辛さは、本人でなければ分からない葛藤がある。それは、その人の育った環境にもよるが、生まれ持った特性や障がいという場合もある。それに気づき、手を差し伸べる独りよがりな優しさが、却ってその人を苦しめ、反感に繋がる現実もあり得る。しかし、それでも最後まで「その人の明日が、よい明日になるように…」と願うことに、人としての尊厳と素晴らしさであると思う。それを、男同士の友情と不器用な恋愛を通して訴えてきている。P192の小学校6年の卒業文集に、この作品に込めた、著者の熱い思いが感じ取れた。 2023/02/26
まちゃ
625
常識だと思っていることが、実は物事の一面だけを捉えた思い込みなのかもしれない。読み終わった後に、そんな思いを抱かせる物語。読後感は良かったです。篠ちゃんのセリフに共感「ほんとうの自分とか、そんな確固たるもん、誰も持ってないもん。いい部分と悪い部分がその時のコンディションによって濃くなったり薄くなったりするだけで」2022/12/25