内容説明
ホメーロスの声が甦る。トロイア戦争を背景に展開する人間の運命―紀元前8世紀から、語り継がれ読み継がれてきた生と死の大叙事詩。学匠詩人土井晩翠が華麗荘重に歌い上げた、本邦初のギリシア語原典からの格調高い韻文完訳・新版。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Witch丁稚
4
何が世界最古の文学を文学たらしめているか。誰もが知っている歴史的事実についての話だがただの年代記ではない。10年続いた戦争のうち10日ほどだけを語るという in medias res(物事の途中へ)という技法を使用し、大枠の中に逆の構造が入れ子になっている(ヘレネーを取られたメネラーオス、ブリーセーイスを取られたアキレウス)ことで意外性とサスペンスを生みつつ周知の結論に収斂するという技巧的な構成。復讐に燃え殺して死体を凌辱しても収まらなかった怒りを終わらせたのは敵味方を超えたシンパシーによる和解。2020/07/22