出版社内容情報
松下幸之助の経営論の主著『実践経営哲学』では、20項目にまとめられた経営の心得の一つに「自然の理法に従うこと」とあるだけではなく、他項目にも通底して「自然の理法」(あるいはその同義語)の概念が繰り返しみられる。とはいえ、「自然の理法」が経営論の文脈であまり注目されてこなかったのは、宗教的で得体のしれない概念であったことに原因の一つがあるだろうと著者は説く。
本書は、松下幸之助の根底にある人間や世界に対する見方や考え方を、「死生観」をキーワードにして著者なりの解釈でまとめたものである。
本書の構成・内容は、以下の通りである(本書「イントロダクション」から抜粋・要約)。
●第1章では、幸之助が経営において重んじたとされる「自然の理法」について考える。幸之助はなぜ人知を超えた「理法」の存在を信じたのか。特に、若き日に形成されたという幸之助の運命観に着目する。
●第2章では、幸之助の病の経験をみていく。幸之助は肺尖カタル(肺結核の初期症状)を患ったことをはじめ、若い頃から体が弱かったという。幸之助にとって「自然の理法」、あるいは同様に重んじた「物心一如」とは、概念というよりも実在や事実であり、その背景として、自身が病と向き合って心身で感じていたことと関係していた可能性を考える。
●第3章では、幸之助の宗教的背景を考察する。様々な宗教とかかわりがあったとされる幸之助だが、本章では、特に自身の病の経験もあって関心を強めたと思われる「生長の家」の影響について、幸之助が戦前から親交があり、戦後はPHPの研究や活動に協力的だった実業家の石川芳次郎との関係から考察する。
●第4章では、「一から出て一に帰る」という幸之助の死生観の考察を通して、幸之助の現世肯定、現世主義について論じる。「一」とは、「宇宙の根源」「大宇宙の生命体」である。人間はその「一」から霊的に分岐してこの世に現出し、死後は「一」に溶け込むという。換言すれば、個々の人間が他人と区別できる個別の存在であるのはこの世においての限りということだ。
●第5章では、「宇宙の根源」の視点から、肉体を持った人間より成る現実の「俗世」に視点を下し、幸之助の教育論、特に道徳教育論について検討する。「物をつくる前に人をつくる」と強調していたように、幸之助は人づくりを経営の要諦と考えていたからだ。
●最後の「補論」は、幸之助が大切にした「商道」、すなわち商売人として持つべきあり方・考え方の時代的背景について考察した小論である。
松下哲学の源流へ遡る一冊。
内容説明
希代の経営者を突き動かしたものとは。「素直な心」「自然の理法」「生成発展」…松下哲学の源流へ遡る。
目次
第1章 「運命」を生かす―人知を超えた「理法」の存在
第2章 「不健康またけっこう」―病と幸之助
第3章 宗教的背景を探る―「生長の家」のケースを手がかりに
第4章 死生観はどのようにして涵養されたか
第5章 「期待される人間像」議論への参画
補論 幸之助の「商道」が生み出された時代背景
著者等紹介
川上恒雄[カワカミツネオ]
1991年一橋大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。1997年同社退社後、南山大学宗教文化研究所研究員、京都大学経営管理大学院京セラ経営哲学寄附講座非常勤助教などを経て、2008年PHP研究所入社。2019年より同社PHP理念経営研究センター首席研究員。ランカスター大学宗教学博士(Ph.D.)。エセックス大学社会学修士(M.A.)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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