出版社内容情報
内向的な少年グレゴリーは、お手伝いの老女マルタがなぜか気になる。マルタは故郷を追われたウクライナ人だった。グレゴリーはマルタのために、聖母の絵を作ろうと決心する…。人のために行動することで、しだいに外に心を開き成長してゆく少年の物語。 小学校中学年~
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
天の川
62
良い本を読んだなぁと心から思える。自分の世界を持っていて、家族にも立ち入らせようとしない少年グレゴリー。ウクライナから来たお手伝いさんマルタの寂しい心の落ち着く先を作ってあげたいと思う(正教会を信仰しているのであろうウクライナ人にとって、イギリスの教会は心の安寧をもたらす場所ではないのだ)。マルタの求めるマリア様を作ってあげたい一心で、それがどんなものか知るために、材料を手に入れるために、彼が自分の心の部屋から一歩踏み出し、自分のこだわりの宝物まで材料として使う…その心の成長の過程がとても美しかった。2021/03/16
帽子を編みます
59
大好きな本です。一見冷たい印象のあるグレゴリーですが、捨て猫だったルートルヘの態度を考えると愛情深い性質です、ただそれを外に表すことはなかった。今回マルタの秘められた悲しみに気づき、それを解消してあげたいという強い気持ちが彼を動かします。傷ついた人のために動くこと、自分で考え行動すること、強い思いが次々に周りの人々を動かします。慎重に作業を進めて、試行錯誤を繰り返し、イコンを完成します。カラーページのコラージュのイコン、まさにぴったりで何度も見比べてしまいます。温かな涙、幸せな気分に満ちて終わります。2022/07/10
ぶんこ
55
繊細すぎるグレゴリーは、家族でさえも自分の世界に入らせない9歳の男の子。両親はともに建築家で多忙。家政婦さんはウクライナからの難民で年配のマルタ。歴代の家政婦さんには馴染めなかったグレゴリーですが、マルタには心許す。そのマルタの心の拠り所が、台所の“いい場所”。マルタを笑顔にしたい一心で“いい場所”を手作りする必要に迫られて、外の世界へ踏み出します。大英博物館、高級宝石店、帽子屋さん、お菓子屋さんへ。妹のジャネットも素晴らしい相棒ぶりで助けます。“いい場所”が聖母子像だったのも印象的でした。2021/05/09
ヴェルナーの日記
41
本作品で重要な存在であるイコン。イコンとは、およそ聖画像のことであり、イエス・キリスト、聖人、天使、聖書における重要出来事やたとえ話、教会史上の出来事を画いた画像であり、本作では幼子イエスを抱くマリアということになる。イコンの歴史には、紆余曲折があり、一時期は異端として徹底的に破壊された。その後、復興を遂げるが、おもにロシア正教会の活動が活発だった。本作品に登場するマルタは、ウクライナ人であり、まさにロシア正教徒であろうと思われる。ウクライナといえば、古くから政治的不安定さによる紛争の絶えない地域である。2014/12/11
joyjoy
26
10数年ぶりに開く。自分の世界に閉じこもりがちだったグレゴリー少年が、お手伝いのマルタ(ウクライナからの難民!)を喜ばせたいと、贈り物をするために大奮闘。自分から人と関わり始め、友達もでき、大切にしていたものも犠牲にし、と、その変化に胸が熱くなる。挿画も物語の雰囲気にぴったりですばらしい。地味だけど、しみじみ好きだなぁと再確認。初読のあと、マルタのように台所にいい場所が欲しくて、自分でも台所に聖母子画を掛けたのだった、と思い出す。子どもの頃に読んだら、きっとグレゴリーを真似て工作を始めたくなっただろうな。2022/04/19
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