出版社内容情報
ある谷間の古い屋敷を舞台に、義理の兄妹となったロジャとアリスン、屋敷のコックの息子グウィンの三人が織りなす、誤解と無理解から生まれる愛の悲劇。イギリス・ウェールズ地方に伝わる神話・伝説をもとにした哀切なファンタジー。●カーネギー賞 小学校高学年~
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
300
ウェールズの古伝承群『マビノギオン』の「マース」が、この物語の重要な典拠として踏まえられているようだ。『マビノギオン』は元々はウェールズ語で語り伝えられていたであろうし、現代的な感覚からは整然としたものでもなかっただろう。しかも、日本語訳になると、ひじょうにわかりにくいものになってしまう。世界に入り込む以前に意味をとることにさえ困難が生じるほどである。さらにはイングランドとウェールズとの力関係や身分差までが加わって、一層に煩雑なものとなった。したがって、アリスン、ロジャ、グゥインの三者のありようも今一つ⇒2024/05/27
syaori
50
ふくろう模様の皿を見つけたことから始まる物語は、階級差や地縁、イングランド人がウエールズを征服した歴史などが重くのしかかり、また伝承を下敷きにすることで主人公たちの運命に宿命的・普遍的な重みが加えられているように感じます。花になりたいのにフクロウにされる「彼女」。なぜ彼女はいつも「花を見ず、フクロウを見なくてはなら」ないのか? 繰り返される人の愚かしさ。誰もがそれぞれ考えを持っていて、そこから愛も葛藤も生まれ、さらに悲劇も生まれ、しかしだからそれを乗り越えた最後の花の舞う場面をとても美しく感じました。2017/02/15
帽子を編みます
47
好きな本で冷静に読むことはできません。児童書の棚に置くならあとがきで説明するのではなく巻頭に登場人物一覧、マビノギオンの概略を付けるのが親切でしょう。話者の説明もなく会話が続き具体的に何が起きているのかわからない状況から始まります。全編これはこういうことなのですという説明はなく会話の端々にあるカケラを頼りに読み進めていくわけです。この物語世界をわかる者だけに語りたいという作者の意志を感じるのは不遜でしょうか。伝説世界から続く悲劇、花はただ山の中で咲いていたかった、それがかなうなら悲劇は終わるのでしょう。2024/05/19
りー
35
これ、児童書なの?という内容。1980年初版。荻原規子さんの書評から手に取りました。ウェールズの神話伝説「マビノーギオン」の「マソヌウイの息子マース」が主題。神話上の三角関係(夫・妻・妻の愛人)が形を変えて伝説の谷の住人に何代にもわたって再現されてしまう、という物語。神話というか、呪いというか…古層神話に触れたときのヒヤっとする感覚。主人公は都会から避暑に来るお屋敷の娘と義理の兄、そして屋敷の雇い人の息子。3人の少年少女はその呪いの輪から抜け出せるのか。花降るラストシーンが美しかったです。2021/10/01
がらくたどん
32
大昔に読んで書棚ですっかり古びていた本。古いイギリスの暗い伝説っぽさが立ち昇り背筋を冷たい指でそっと撫でられ続けるような楽しい読書となった。ウエールズの古い邸宅で休暇を過ごす裕福なイングランド人一家の少年少女。自分たちの土地なのに富も階級も上位なイングランド人に召し使われながら主人の娘を慕うウエールズ人の使用人の息子。屋根裏で見つかった絵皿をきっかけにウエールズの谷間に伝わる悲劇的な伝説が蘇る。描かれるのは思いのほか現代的な格差と初々しい恋慕が誤解と無理解に歪められて作り出される三角関係。ラストは美しい。2021/11/22
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