出版社内容情報
知的財産権のビジネスにおける重要性は、企業経営者や実務者、また産業や科学技術の政策関係者も広く認識しており、書籍や研究論文なども多く刊行されてきた。しかしこれまで、日本企業の多くは、イノベーション創出で先行し、多数の有力特許権を取得しているにもかかわらず、他社に対する競争優位を確立できていない。また、知的財産権による収益獲得の具体的スキームは、各企業内に閉じた機密情報として扱われ、広く共有されているとは言い難い。
そのような状況の中で、本書はこれまでほとんど提示されてこなかった、企業や国のイノベーションの収益化、更には、イノベーション創出において知的財産権をどのように活用するべきかを具体的に明らかにする。ビジネスエコシステムにおけるステークホルダー間の関係に着目し、経営戦略に組み込んだ知財の活用戦略を提案する。
すなわち必須特許保有企業が協調し(これを本書では「暗黙の知財同盟」と呼ぶ)、競合他社の参入を阻止するスキームを初めて提示。これによって、企業がイノベーションへの歩みを止めることなく、創出されたイノベーションを確実に収益化する構造を、インクジェットプリンタや白色 LED などの具体的な事例で、詳細に解説していく。
企業の知財担当者はもちろん、特許戦略を知財部門に一任し、単純な独占排他権の行使のみに終始しているために、せっかくのイノベーションの成果をうまく収益化できない状況にある企業の経営者にこそ、是非本書を手に取っていただきたい。特許権の活用を経営者レベルで考えることの重要性が分かるはずだ。
内容説明
単純な独占排他権の実施にとどまっていては、技術開発で先行しても、収益は得られない!市場競争は維持しつつ、必須特許保有企業の取り決めのない類似行動により、競合他社の市場参入を阻むスキームを初めて解明!ビジネスエコシステムにおけるステークホルダー間の関係性に着目し、経営戦略に組み込んだ知財マネジメントを提案する。
目次
プロローグ―知的財産権は収益に貢献するか?
第1章 イノベーションを収益化する知的財産戦略
第2章 インクジェットプリンタにおける暗黙の知財同盟
第3章 DVDドライブにおける暗黙の知財同盟:DVDプレーヤーとDVDドライブの比較事例研究
第4章 白色LEDにおける暗黙の知財同盟
第5章 携帯電話GSMにおける排他的企業連合
第6章 暗黙の知財同盟の実践
エピローグ―知的財産マネジメントの未来のために
著者等紹介
後藤吉正[ゴトウヨシマサ]
名城大学学術研究支援センター顧問。パナソニック入社後、カーネギーメロン大学コンピュータサイエンス研究科で世界最初期の自動運転を実現。帰国後、情報システムの開発を担当し、BSデジタル放送の番組表、暗号化システムの技術標準と放送局システムを開発。その後、R&D知的財産センター所長、上席理事。その間、基準認証イノベーション技術研究組合理事長。2012年から名古屋大学産学官連携推進本部教授として、産学連携拠点整備やベンチャーファンド設立に貢献。その後、科学技術振興機構理事。2022年から現職。イノベーションシステムと優れた研究を生むマネジメントに関心を持ってきた。2015年度知財学会誌優秀論文賞。博士(工学、技術経営)
玄場公規[ゲンバキミノリ]
法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科・研究科長・教授。大阪大学大学院工学系研究科・招聘教授。三和総合研究所研究員として行政の受託調査及び企業のコンサルタント業務に携わり、大学教員に転身。東京大学大学院工学系研究科アクセンチュア寄附講座助教授、立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科教授などを経て、現職。2015年度知財学会誌優秀論文賞
栄藤稔[エトウミノル]
大阪大学先導的学際研究機構教授、順天堂大学医学研究科客員教授。パナソニックで画像符号化標準化に従事した後、NTTドコモに転じ、3G以降のモバイルマルチメディア技術開発とデータマイニングを立ち上げる。MP‐4ファイルフォーマットの生みの親。米国にてDOCOMO Innovations、DOCOMO Capital社長を経て、2016年7月までNTTドコモベンチャーズの社長を兼務し投資業務に従事。2017年にNTTドコモの役員を退任し現職に就任。この間、機械翻訳スタートアップ株式会社みらい翻訳を創業し2020年6月まで代表取締役社長。2024年まで科学技術振興機構CREST人工知能領域研究総括。日本企業のデジタル変革を支援するコンサルティングと人材育成に興味を持つ。博士(工学)
浅井明[アサイアキラ]
NTTデータ経営研究所から東北大学特任教授(客員)として大学の知的財産戦略業務を支援中。1991年からパナソニックにて半導体デバイスの研究開発及び事業化、出向先での国家プロジェクトの企画推進や研究所の戦略企画を経て2005年から知財戦略業務に従事。2019年から現社にて知財戦略デザイナー(特許庁/(独)工業所有権情報・研修館委託事業「知的財産戦略デザイナー派遣事業」)として複数の大学を支援。イノベーションの創出・発展・維持と経営/競争(共創)戦略としての知財戦略に関心があり、大学病院の医師のような実務と研究の両方を実践する知財戦略業務を目指している。博士(工学)、修士(経営学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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