出版社内容情報
敗戦の先に見えた文学のかたち
世界文学が話題になる今日、国民文学や文学史の誕生を問いかける試みは時代錯誤に思われるかもしれない。
他方、近年のナショナリズムの高まりや排外主義の台頭は見逃すことができない広がりを見せている。
こうした状況は、国民国家=国民文学という図式に再考をうながす。情報のグローバル化と文化のナショナリズムは矛盾しない。そもそも文学にはそれなりの自立性が備わっており、国民国家に容易に回収されるものではないのだ。
本書はこうした問題意識から「フランス文学」の誕生とその形成を解明してゆく。
まず確認できるのは、フランス革命下、「文芸」が「文学」に変貌し、文学が社会の表現であるという共通了解が醸成されてくることだ。
さらに特筆すべきは、普仏戦争の敗北を受けた第三共和政のもとで「フランス文学史」が、修辞学や批評、歴史学と競合しながら彫琢されていったという事実である。
そこには国民の立ち上げという文脈に解消できない、ゆたかな地平が広がっていた。〈戦後民主主義〉としてのフランス文学史の発見!
【目次】
序章 近代文学、国民国家、文学史
加藤周一『日本文学史序説』の意義/文学の終焉?--柄谷行人/
国民文学から文学史へ/本書の構成
第一章 日本の「世界文学全集」とフランス文学
世界文学の多様化/国文学の誕生/世界文学全集の時代/
河出書房版『世界文学全集』/中央公論社版『世界の文学』/
集英社のシリーズ/池澤夏樹編『世界文学全集』の新しさ/
審問に付される正典
第二章 世界文学からフランス文学へ
ゲーテと知的共同体のユートピア/現代の世界文学論/
ダムロッシュ『世界文学とは何か?』/フランコ・モレッティ『遠読』/
パスカル・カザノヴァ『世界文学空間』/世界文学論と日本--批評と教育
第三章 「国民文学」の誕生
文学 litterature が意味するもの/『フィクション試論』と小説の擁護/
文人から作家へ/スタール夫人『文学論』の基本構図/
フランス文学の特質/文学のジェンダー性、すでにして/
文学と改善可能性/『文学論』の価値とその後/
文学は社会の表現である--ボナルド/ドイツ・ロマン派の文学観
第四章 文学史の成立とその争点
外国文学へのまなざし/歴史的な思考の台頭/
アンペールの「国民文学」宣言/文学と国民史/
文学史以前の文学講義--ラ・アルプ、ヴィルマン、ニザール/
忘れられた文学史家タイヤンディエ
第五章 中等教育における文学史と歴史学
第三共和政下の教育改革/ラテン語vsフランス語/
中等教育におけるフランス文学史/
ルベーグ『フランス文学選集』の射程/ヴィクトル・ユゴーの特権性/
十九世紀文学の飛躍/歴史学と中等教育/『二人の子どものフランス巡歴』
第六章 フランス第三共和政下の人文学の再編
第三共和政とは何か/普仏戦争の衝撃--ルナンとテーヌ/
エミール・ゾラの歴史認識/総合大学 Universite の再生に向けて/
モデルとしてのドイツ/改革の具体策/大学改革と人文学の再構築/
知的プロレタリアートの不満
第七章 ギュスターヴ・ランソンの試み
歴史学を前にした文学史/ランソン『フランス文学史』とその意図/
ランソンに何が欠落しているか/ランソンの原理/文学史の政治性/
他の学問分野へのまなざし--歴史学と社会学/ランソンの先見性
終章 現代のフランス文学史
フランスで刊行された文学史/日本のフランス文学史/
作家の地位の変遷/諸外国で刊行されたフランス文学史/
文学史の未来に向けて
あとがき
内容説明
普仏戦争の敗北後、修辞学や批評、歴史学と対抗しながら、いかに「フランス文学」が生まれてきたのかを解き明かす。
目次
序章 近代文学、国民国家、文学史
第一章 日本の「世界文学全集」とフランス文学
第二章 世界文学からフランス文学へ
第三章 「国民文学」の誕生
第四章 文学史の成立とその争点
第五章 中等教育における文学史と歴史学
第六章 フランス第三共和政下の人文学の再編
第七章 ギュスターヴ・ランソンの試み
終章 現代のフランス文学史
著者等紹介
小倉孝誠[オグラコウセイ]
1956年生まれ。東京大学大学院博士課程中退。現在、慶應義塾大学教授。専門は近代フランスの文学と文化史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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