出版社内容情報
恐怖と悪夢、その背後にある笑いと底知れぬ悲哀。貴重な自伝的エピソードを含む、生前最後の短篇集。
【著者紹介】
1953~2003年。チリの作家。著書に『通話』『野生の探偵たち』『2666』など。
内容説明
インドから帰還した同性愛者のカメラマンの秘められた記憶、Bと父がアカプルコで過ごした奇妙な夏休み、元サッカー選手が語る、謎のチームメートとの思い出…貴重な自伝的エピソードも含む、「秘密の物語」の数々。心を震わす13の短篇。
著者等紹介
ボラーニョ,ロベルト[ボラーニョ,ロベルト] [Bolano,Roberto]
1953年、チリのサンティアゴに生まれる。1968年、一家でメキシコに移住。1973年、チリに一時帰国し、ピノチェトによる軍事クーデターに遭遇したとされる。翌74年、メキシコへ戻る。その後、エルサルバドル、フランス、スペインなどを放浪。77年以降、およそ四半世紀にわたってスペインに居を定める。1984年に小説家としてデビュー、精力的に作品を発表する。2003年、50歳の若さで死去。2004年、遺作『2666』が刊行され、バルセロナ市賞、サランボー賞などを受賞
松本健二[マツモトケンジ]
1968年生。大阪大学言語文化研究科准教授。ラテンアメリカ文学研究(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
どんぐり
88
ボラーニョ・コレクションから表題作を含めた13の短篇集。著者と思われるB少年と元ボクサーの父親との小旅行〈この世で最後の夕暮れ〉。ヨーロッパ在住の亡命チリ人たちの〈1978年の日々〉。ポルノ女優の母親と女たちの情熱的な時代を描いた〈ラロ・クーラの予見〉。試合前日にチームメートと血の儀式で勝利するアフリカ人の〈ブーバ〉。死姦趣味の男に凌辱される死体となった男が語る〈帰還〉。映画監督のホドロフスキーの名前が友人として出てくる〈ダンスカード〉。これらは印象に残った作品。2024/01/03
ケイ
81
表題作を含む短編集。この作者は初読みで、ボラーニョに対する知識はないのだが、確かにラテンアメリカ的なものを感じる。この中では第一話の『目玉のシルバ』が圧倒的に好きだ。ベルリンのベンチやインドの売春宿の場面がありありと浮かんでき、主人公の気持ちや行動にとても共感し、とてつもないやりきれなさにおそわれた。そこから受けたものがとて大きく、二話からも同じものを期待した分、少し肩透かしだったかな。話の順番が違っていればと思う。2014/10/19
藤月はな(灯れ松明の火)
47
この本は、題名も中身もそっけないようなシンプルさに却ってポルノ撮影、殺人、同性愛者の迫害、スペインの政治的混乱など、饐えて血腥いインパクト大の設定と相反している。だけど飛び切りにクールで快感のある読書ができるボラーニョ作品が好きだ!からりとした哀切を誘われる『目玉のシンバ』、そっけないけど魅力的な数行に惹き付けられ、どこかコミカルな『帰還』、匂わせる暴行の後に淡々とした狂気と正気を垣間見せる表題作、『2666』のように、健康的なポルノ出演者たちの死を羅列して事務的に描く『ラロ・コーラの予言』が印象的です。2014/01/08
まさむ♪ね
41
つかまえたと思ったらすり抜ける、すり抜けたと思ったら手中にある。そこら中いたるところにただよう死の香り。わたしはわたしの死体を見下ろし、ふわふわと浮遊しながら黒魔術の玉遊びに興じていた。ペーソスと幽霊とサッカーと。「目玉のシルバ」「帰還」「ブーバ」がすき。とにかくこのボラーニョつかみどころがない、でもたぶんまた読みたくなる、そしてそのときは好きな短編も変わっているだろう、噛めば噛むほど味の出る、きっとそんなスルメ本。2016/02/25
ユーカ
34
13篇の短篇集。ずっと「魔術的リアリズム」について考えながら読んだ。『百年の孤独』とか『南部高速道路』みたいなハッキリとした物ではないけれど、ボラーニョにも確かにそれは息づいている。その息づき方は、収められている『ブーバ』の文句を借りれば、“いずれにせよその人はとても苦しみ愛していたのよ”という印象だったけれど。収録順で中央にかまえるタイトルロールと『帰還』『ブーバ』は読みやすく燦然と輝くよう。この三篇を読むだけでも読書体験的に価値はあると思う。でも本質は『ラロ・クーラの予見』にあるんじゃないかな。2016/05/31