出版社内容情報
「移民文学の母」と称され、20カ国以上で刊行されるトルコ出身のドイツ語作家、初の邦訳。ビューヒナー賞受賞。多和田葉子氏推薦
内容説明
「移民文学の母」と称されるトルコ出身ドイツ語作家の短篇集、初の邦訳!二〇二二年ビューヒナー賞受賞記念講演も収録。「母の舌」:トルコ人女性である「わたし」は、祖国の政治的混乱から逃れ、ドイツのベルリンで暮らしている。祖国での母との対話や祖母の姿、覚えている単語、友人が殺された記憶などを回想しつつ「わたし」は、どの瞬間に母の舌をなくしたのか、繰り返し自問する。そして母語を取り戻すために、祖父の言葉であるアラビア語を学ぼうと決心する。「祖父の舌」:「わたし」は失われた母語の手がかりを求め、ベルリンのアラビア書道の偉大な師、イブニ・アブドゥラーの門をたたく。指導を受けるうちに互いに愛しあい、「わたし」はイブニ・アブドゥラーの魂を身内に宿すと、アラビア文字たちは「わたし」の身体の中に眠りこんだ獣たちを目覚めさせた…。
著者等紹介
細井直子[ホソイナオコ]
神奈川県横浜市出身。慶應義塾大学大学院文学研究科ドイツ文学専攻博士課程修了。ケルン大学大学院でドイツ文学・児童文学を学ぶ。2021年、ユーディット・シャランスキー『失われたいくつかの物の目録』(河出書房新社)で第七回日本翻訳大賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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buchipanda3
90
ある歴史的背景からドイツへ移住したトルコ出身作家の短篇集。題名にある舌は言葉の意味らしい。移民となり異文化にさらされ離れていく母語。母親との思い出から政治的に奪われた母語の文字を彼女は学ぼうとする。言葉と身体と魂を思うがままに結ぶ奔放さに魅了された。著者は二つの国を持つ移民者の生活と感性を描く。地続き(同じ舞台)でも扉ひとつで違う世界。見えない扉の先の苦難さ。寓話風の語りはユーモアと卑俗さを添え、敢えての拙い文章に自己の矜持を込める思いが深く残る。解説で表紙の絵が文字と知り、アラビア文字の柔軟さを感じた。2024/12/05
ヘラジカ
33
包み隠さず言うと、一読ではまるで理解できない部分も多く四作とも読み通すのに些か苦労した。よくぞこんな難しい(色んな意味で)小説を翻訳したものだ。訳者の苦労が偲ばれる。しかし、解説で書かれていた”とてつもないパワー”はしがない読者の私でも確かに感じられたし、世界文学を読む理由の一つである楽しさをも味わうことが出来た。政治的、社会的な背景を知悉していればもう少し破天荒さやきついアイロニーを楽しめたのかもしれない。何か凄い作家の作品を読んだという感覚だけはある。長い読書人生にはこういう尖った作品がもっと必要だ。2024/09/01
フランソワーズ
10
トルコ系ドイツ語作家の短編集。もうなんだか分からない。アイデンティティの喪失が通底にあるのだけれど、とにかくそれを追究するというよりも、さまざまなテーマにエロ・グロ・ナンセンスも動員して四方八方、縦横無尽に吠えまくる。途中で物語を読むのを諦めて正解。とにかくそのエネルギーに圧倒されるべし。2024/10/06
rinakko
8
いつとも知れず母の舌を失くした語り手が、再び母語を取り戻そうとする(表題作と「祖父の舌」)。訳者あとがきによると、“舌足らずでブロークンなドイツ語” で書かれているそう。トルコ語からそのまま直訳したという言い回しなどは、思いがけない表現になっていて、むしろ新鮮に言葉の意味が直截に伝わる。エクソフォニーの作家の作品として堪能した。「ある清掃婦の履歴、ドイツの思い出」がとりわけ好きだった。“わたしは清掃婦、ここで清掃するのでなかったら、ほかにいったい何しろと。故郷(くに)でわたしはオフィーリアだった。”2024/09/10
樽
7
カタコトふうのドイツ語を、日本語に翻訳するのはきっと大変だったとは思うけど、この独特の不思議な読感に一役買っている感じがする。世界観もヘンだから、もうわけわかんないんだけど、なんか面白く読めました。2025/04/30