出版社内容情報
人間に潜む悪意、暴力、卑下、虚栄心などを描き出し、現代社会の弱者の不安を自由自在に奏でる。欧米も注目する韓国の奇才による初の短篇小説集。
内容説明
女性の日常は、サスペンススリラー。現代社会の弱者の不安を自由自在に奏でる欧米も注目する韓国の奇才が放つ、衝撃の短篇小説集!
著者等紹介
カンファギル[カンファギル]
1986年、全州市生まれ。2012年、短篇小説「部屋」でデビュー。2016年に短篇集『大丈夫な人』、2017年に初の長篇『別の人』(小山内園子訳、エトセトラブックス、2021年)で第22回ハンギョレ文学賞を受賞した。2020年には短篇小説「飲福」で第11回若い作家賞大賞を受賞
小山内園子[オサナイソノコ]
1969年生まれ。東北大学教育学部卒業。NHK報道局ディレクターを経て、延世大学などで韓国語を学ぶ(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヘラジカ
55
どの作品も読後に強烈な余韻を残す傑作短篇集。ありとあらゆる暗色のオーラを様々な物語、シチュエーションのなかで結晶化させる表現力に舌を巻いた。近しい者の暴力性や悪意、閉鎖的な社会風俗への恐れから、都市が壊滅するほどの未知の病原菌まで。微かな不安から紡ぎ出されるサスペンスは、明確な”出口”がないことで読者の心中に蟠り続ける。訳者あとがきにてその意図が解説されているが絶妙と言わざるを得ない。作中の不快感が読み手をも侵食していく素晴らしい短篇の数々。恐れ入った。甲乙つけがたいが収録作では「部屋」が一番好き。2022/06/02
竹園和明
44
絶望的に重たく暗い。様々な状況下で不安や劣等感などネガティブな感情を抱えた人達。お隣韓国も日本同様、社会の疲弊ぶりが酷そうだ。…虫が這い回るような厭なざわつきがつきまとう。医学部に通う彼氏が購入した田舎に建つ一軒家に、彼と車で向かうミンジュ。実はその1週間前、彼女は彼に階段から突き落とされている。不慮の事故だと言うのだが…。不穏な空気を纏ったままの車中で次々起こる出来事にハンパない嫌悪を覚える。2人は次の春に結婚するそうだ(「大丈夫な人」)。立場的弱者を描く事で歪んだ社会を射る、強烈な悍ましさの9作品。2022/10/29
アマニョッキ
43
『別の人』がとても良かったのでかなり楽しみにしていた本作。そんな呑気な我をめためたに切り刻んで何かの液で溶かして壁砂ぶち込んで繭で固めて三日三晩雨風に晒すくらいのポテンシャル持った作品でした。もう無理やしばらくダメージ引きずるかもしれん。『部屋』と『手』が抜群に。あと『虫たち』も。しんどすぎて途中で何度も投げ出そうとしたけど、今この手にこの作品が巡ってきたのも何かのご縁やと思ってがむしゃらにくらいついた。なかなかにおすすめしにくいが、作品の完成度は間違いなく高いです。体調良いときにどうぞ。2022/12/21
星落秋風五丈原
27
「湖――別の人」親友ミニョンの恋人で、周囲から「すごくいい人」と評判の男性イハンと湖に行くのがひどく憂鬱だった「私」=ジニョン。その湖はミニョンが暴行された現場であり、ミニョンは腕に痣があり、怖がっているようだった。イハンに何度も同行を求められ、彼を疑い続ける自分も信じられなくなってきた「私」は、ついに湖に一緒に行くことに イハンがわざわざ“自分”と対象を断って「ミニョンが自分について何か言わなかったか?」と執拗に聞く場面がおかしい。2022/07/06
フランソワーズ
22
「大丈夫」という言葉は、呪文?自己暗示?どの短編の主人公ーほとんどが女性というのも重要ーも”大丈夫ではない”段階にある(もしくは差し掛かっている)。その境目あたりを、まるで棒っ切の上を歩いているような危うさとひりつく感じにちょっぴり不快感を催しつつも、なぜかクセになる。ホラーとも、スリラーとも少し違う不思議な読書感。お気に入りは表題作『大丈夫な人』、『あなたに似た歌』。それと『部屋』のもの悲しさも好き。→2022/09/06