出版社内容情報
睡眠に異常を来した「ぼく」の意識は、太平洋戦争末期に少年工として神奈川県の海軍工廠で日本軍の戦闘機製造に従事した父・三郎の記憶へ漕ぎ出す――。
内容説明
睡眠に異常を来した「ぼく」の意識は、太平洋戦争末期に少年工として神奈川県の高座海軍工廠で日本軍の戦闘機製造に従事した父・三郎の記憶へ漕ぎ出してゆく―。台湾を代表する世界的作家の鮮烈な長篇デビュー作。
著者等紹介
呉明益[ゴメイエキ]
1971年、台湾・台北生まれ。小説家、エッセイスト。輔仁大学マスメディア学部卒業、国立中央大学中国文学部で博士号取得後、現在、国立東華大学華語文学部教授。短篇小説集『本日公休』(97年)でデビュー。2007年、初の長篇小説『眠りの航路』を発表し、『亜州週刊』年間十大小説に選出された。以降、歴史とファンタジーを融合させたユニークな作品を次々と発表する。環境問題にも深く関わり、生態関懐者協会の常務理事、黒潮海洋文教基金会の理事を兼任、現代の環境意識に呼応した作品を多数発表している。最新作は、生物としての人の精神的な進化に思考を巡らす短編小説集『苦雨之地』(29年)
倉本知明[クラモトトモアキ]
1982年、香川県生まれ。立命館大学大学院先端総合学術研究科修了、学術博士。台湾文藻外語大学准教授。専門は比較文学。2010年から台湾・高雄在住(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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アナーキー靴下
88
台湾では『歩道橋の魔術師』や『自転車泥棒』よりも前に刊行された呉明益の最初の長編小説とのこと。訳者あとがきでかなり詳細に解説されており、それ以上説明する言葉が見つからない。比重としては太平洋戦争の記憶を浮かび上がらせる要素が強い。断絶された父の記憶を借りて、物語を書く意味…それは、知る意味、考える意味でもある…そんな風に感じる。竹山道雄の『ビルマの竪琴』が生き残った人のための慰霊碑なら、この本は死者のための、もしくは弁明の機会を持たない他者のための墓標。その墓標は、生きた軌跡そのものへの尽きせぬ想い。2021/10/07
榊原 香織
75
魔術的リアリズム、のこれが原点。 時間軸が章ごとに変わるのでちょっと分かりにくいですね。詰め込み過ぎかな。 三島由紀夫まで出てくるし(平岡君) 中国語、台湾語、原住民語、など、複雑な台湾文学の言語状況。 訳、工夫されてると思います。特に、訳者の身についてる瀬戸内海方言を使ったところが(後書き読むまでどこの方言か分からなかった)2021/11/12
藤月はな(灯れ松明の火)
51
戦中の日本と台湾の関係を三重の語りによって浮き彫りにしていく。「私」は突如、夢の中で若き父の記憶を観るようになる。それは記憶されないが、次第に現実と夢の境目が曖昧になる。夢の中では「私」の父、三郎が少年工として日本で過ごしていた・・・。「私」は三郎の過去と同化しつつも覚えていないために自覚するに至らない。それは国の意向で友好国の戦争に従事しながらもアイデンティティが日本へと帰順しなかった台湾人の立場をも暗喩するかのよう。だからこそ、平岡君=三島由紀夫氏の言葉は疎外される者達を置き去りにする自己中さがある。2022/06/29
小太郎
35
呉明益さんは「歩道橋の魔術師」「自転車泥棒」がとても素晴らしかったので長編デビュー作のこの作品を読んでみました。視点が三つ(私と過去の自分、そして父三郎)で書かれていますがそんなに詠み辛くはありません。重層的に語られる台湾と日本の関係。そして自分の内面に睡眠をキーワードにして踏み込んでいく過程が語られています。特に三郎の日本で三島由紀夫と出会うところなどはわくわくしました。仏教を含めかなり衒学的な展開などこれが後の「歩道橋・・」に繋がってい行くのだと感じました。★3.52024/12/21
ykshzk(虎猫図案房)
22
「複眼人」で気に入って以降の2冊目。読み終えたものの、多分私はほとんど読みこなせていない。広すぎて深すぎて。途中で登場する「平岡君」という日本人が三島由紀夫であることにも気付けないでいた。台湾にルーツはあるが、父親が日本で少年工として働いていた経歴を持つ著者の描き出す日本は、多分恐ろしく的を得ているのだと思う。様々な視点からの語りも興味深かった。人間である主人公はもちろん、カメや菩薩など。菩薩に祈りを捧げる人たちの姿について書く人は数多いても、祈りを捧げられた菩薩側の視点を書く人は多く無いのではないか。 2021/11/05