出版社内容情報
ユルスナールというフランスを代表する女性作家の生涯と類いまれな才能をもった日本人作家である著者自身の生の軌跡とが、一冊の本の中で幾重にも交錯し、みごとに織りなされた作品。
【本文より】
ユルスナールのあとについて歩くような文章を書いてみたい、そんな意識が、すこしずつ私のなかに芽ばえ、かたちをとりはじめた。彼女が生きた軌跡と私のそれとを、文章のなかで交錯させ、ひとつの織物のように立ちあがらせることができれば、そんな煙みたいな希いがこの本を書かせた。
内容説明
「きっちり足に合った靴さえあれば、じぶんはどこまでも歩いていけるはずだ」との思いにとらわれていた著者は、やがてユルスナールの世界への巡礼の旅にでる。フランスを代表する女性作家の生涯と著者自身の生の軌跡とが、幾重にも交錯し、みごとに織りなされた作品。
目次
フランドルの海
一九二九年
砂漠を行くものたち
皇帝のあとを追って
木立のなかの神殿
黒い廃墟
死んだ子供の肖像
小さな白い家
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
108
エッセイ集。誰しも人生の旅を歩いていくのにぴったりの靴というものを探し続けているのかもしれない。その靴さえあれば自分は行くべき所に行けるはずだと。須賀さんも自分に合う靴(生き方)を求めながらも何度もステンと転び迷う人生を本作で振り返っている。そこに同じく故郷を離れた生き方をした作家ユルスナール、さらにユルスナールが描いたハドリアヌス帝とシンクロすることで須賀さんは自らの暗闇から抜け出す。淡々としながらも言葉一つ一つに真摯な思いが込められた文章、そしてどこかやんちゃさもある軽妙さにとても惹かれた作品だった。2023/04/19
mizuki
51
ユルスナールへの憧れが伝わってくるエッセイは、とても須賀敦子さんらしく、柔らかな文章の中にも熱いメッセージがしっかりと詰まった一冊でした。ハドリアヌス帝を追いかけるユルスナール、そして彼女を追いかける須賀さん。ユルスナールと須賀さんが同じ作家としての苦労や喜びを共有しているようでした。わたしには掴めそうでなかなか掴めないものばかり。ただユルスナールの文章の美しさは伝わってきました。彼女の作品を味わい、またこの本も再読できたらと思います。2018/02/08
みねたか@
26
ユルスナールが生きた軌跡と著者のそれとを文章のなかで交錯させ,ひとつの織物のように立ち上がらせるという試み。そこに作品世界も交錯してくる。著者のエッセイとしては若干読みにくいが,それを補ってあまりある深みと奥行き。最も印象深いのは二人がくぐり抜けた「霊魂の闇」。著者は夫との死別により,それまでは見えなかった虚像と実体のあいだに横たわる溝の深さを知り,ユルスナールは世界の崩壊を生き抜くことでハドリアヌスの境地に近づいたという「霊魂の闇」。その経験に思いを馳せるだけで呼吸が深くなってゆく。2020/08/05
ぐっちー
26
須賀さんの文章は優しい味の食べ物のように沁みる。時によって熟成され、選び抜かれた言葉で綴られる作品はそれ自体が宝石。作家ユルスナールの生き方を追想しながら、須賀敦子の人生が二重写しになる。お恐れながら私自身も重ねてみる。「きっちり足に合った靴さえあれば、じぶんはどこまでも歩いていけるはずだ」という冒頭の一文に現れた須賀敦子の姿勢に打たれる。迷いっぱなしの私は、まだ自分の靴が見つかっていないのかな。2018/03/20
花実
16
まず、冒頭のプロローグの文の素晴らしさに驚いた。本文に入ってからマルグリット・ユルスナ―ルの作品を読んでから本作を読むべきだったかと思ったが、それではいつになるかわからないと思いなおし読み進めた。ユルスナ―ルの作品や生涯を追うのだが、須賀さんの留学、友人知人との思い出、ユルスナ―ルに繋がる土地への訪問、数々の文学作品、美術作品へと話題をあちこちにとばしながら、筆者とユルスナ―ルの間を往環する。ユルスナ―ルの『ハドリアヌス帝の回想』、私に読めるのだろうか。読めたら、またこの本も再読してみたい。2014/11/24