内容説明
1861年、男は愛する妻と別れ、世界で最の美しい絹糸を吐く蚕を求めて、最果ての地、日本へ旅立つ。そしてそこで美しい謎と出会う。絹のようにしなやかで官能にみちた愛と幻想の物語。イタリアのベストセラー。
著者等紹介
鈴木昭裕[スズキアキヒロ]
1959年東京生まれ、仙台市在住。東京大学卒。翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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nobi
90
南仏の小さな町からロシアの平原を馬で駆け抜けかつてジパングと呼ばれた国を若い養蚕商人が訪れる。時は江戸末期。黄金ではなく絹、そのためのまだ密貿易という形での蚕の卵の買付けに。商談の相手と出会うのはフクシマの山村シラカワの“薄紙を貼った間仕切りを滑らせて”入った部屋。足を組んで座るあるじの膝に頭をあずけ一人の少女が身を横たえ、彼女の沈黙とまなざしは近寄りがたい絹のような光輝を放っている。その東洋の静寂と官能を象る凛とした言葉とは何と対照的な妻エレーヌの蠱惑に充ちた言葉。異国趣味の枠を遥かに超えた魅惑的物語。2019/04/27
南雲吾朗
66
美しく、苦しい欲望の物語り。語りは柔らかく静かだが、激しい欲望、情熱、嫉妬が感じられる。一つ一つの章は短いが、確実に脳裏にその情景を浮かび上がらせる巧みな文章。エルヴェ・ジョンクールの奥様の心情を思うと本当に苦しい。この物語の中で、唯一少しでも愛情があるのは、彼女だけではないだろうか…いや、やはり彼女も「自分一人だけを見てほしい」という自分の欲望に忠実だったのだろうか…。心に重く残る読後感だった。2020/12/30
ソングライン
21
1861年の南フランス、養蚕の街ラヴィルデュー、32歳のエルヴェ・ジョンクールは蚕の卵の買い付けのため幕末の日本(東北の農村)を訪れます、美しく愛情深い妻エレーヌを残して。裕福な村を治めるハラ・ケイから卵を買い付けるとともに、彼の幼い妻に惹かれていくエルヴェ、ついに商売とは関係なく日本を訪ねてしまいます。そこで知ることになる愛の深さと神秘、大切なものを失った後も残る人生の真実、短い物語の中に見事に描かれる愛に感動です。もっと読みたいバリッコです。2022/06/19
pico
16
嗚呼。最小限に削り落とされた散文的な言葉が創る世界が激しく胸をゆさぶる。虚と実をあわせ備えたまっさらな音楽のような物語に号泣しました。凄く好き!冒頭の一節「蚕を買い、蚕を売った」これにやられましたよ、もお!2009/06/22
noémi
9
映画《シルク》の原作。茫洋とした白い紗がかかった文体。そこにはオリエンタルでエキゾチックな「日本」という国の憧れが描かれていると思う。そんな東洋の魅力に取りつかれてしまった男に、ある日一通の手紙がきて…。映画を見た時、日本の描かれ方にかなり違和感があったが、それでも、この原作であそこまでしっかりと時代考証をし直してあの完成度というのは、スタッフの並々ならぬ努力があったに違いない。キャストもマイケル・ピットとキーラ・ナイトレーというのも絶妙だったと思う。何だかもう一度見たくなってきた。2011/12/30