出版社内容情報
イタリアを代表する女流作家の自伝的小説。舞台は北イタリア、迫りくるファシズムの嵐にほんろうされる、心優しくも知的で自由な雰囲気にあふれた家族の姿が、末娘の素直な目を通してみずみずしく描かれる。イタリア現代史の最も悲惨で最も魅力的な一時期を乗りこえて生きてきたある家族の物語。
内容説明
イタリアを代表する女流作家ナタリア・ギンズブルグの自伝的小説。舞台は北イタリア、迫りくるファシズムの嵐に翻弄される心やさしくも知的で自由な家族の姿が、末娘ナタリアの素直な目を通してみずみずしく描かれる。イタリア現代史の最も悲惨で最も魅力的な一時期を乗り越えてきた一家の物語。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
117
イタリア人作家による家族小説。末娘の著者が戦前から戦後ずっと見つめ続けた両親や兄姉たちの姿が描かれる。中でも雷声の父親と楽観主義な母親が強烈で、二人の生きた言葉の掛け合いが徐々にツボにはまって愉しさに包まれた。家族は反ファシストであることから理不尽な事が降りかかるが、それを越える生きる力に溢れていて、みんな別個に暮らしてもあの両親の家族なのだなと。家族でしか通じない言い回しってある。それで満たされた堪らない家族の物語を読めた。そして淡々としているのに読む内に家族への愛情を深く感じさせる文章も魅力的だった。2022/09/20
nobi
94
千切り絵の一つ一つの小さな紙片のように、家族と親戚知人たちの会話主体のエピソードが並ぶ。父親は大学教授、オリベッティ社の創業家や作家のパヴェーゼ等とも交流ある家柄であるのに、父の怒声、兄弟間の殴り合いの喧嘩…。と対照的な母親と末弟の明るさ。禁欲的に事実だけが例えば家族の連行も親戚との行き来と同じ調子で描かれ、でもその紙片の積み重ねからファシズムが台頭した当時イタリアのユダヤ系の辿る運命が絵となって見えてくる。時に作家の熱い想い溢れる。パヴェーゼの自死に、ことばを取り上げられる苦しさに、母への愛情の由来に…2020/05/16
どんぐり
80
第二次大戦下のファシズムが押し寄せるイタリアのトリノ。社会主義に傾倒する元軍医で大学教授の父親と母親、そして子ども5人のユダヤ系一家。その末娘のナタリア・ギンズブルグによる実名小説である。翻訳は須賀敦子。この時代の悲しくも酷い話しになるのかなと思っていたら、意外にも家族の日常が経年的に淡々と記されている。詩人で作家のパヴェーゼとの交流と自死について言及しているのが、発見。2020/06/25
aika
50
戦争の悲しみに塗られた記憶だけれど、それだけではない。ファシズムの脅威がそこまで迫り家族が次々に逮捕されてもなお、子供たちをロバ呼ばわりする気難しい父親とおおらかな母親に囲まれた家族はまるで落語の小噺のようで、どこかふふっと笑いが漏れてしまう親子を思い返すと、やっぱり家族って一番強いんだな、と思います。ギンズブルクの自分を突き放して書かれた文体において、命を落とした夫レオーネと友人の作家パヴェーゼにまつわる記憶から滲んだ率直さは、他ならない、ギンズブルク自身の深い哀しみと愛情、そして追憶だと思いました。2020/04/24
U
48
ファシズムが台頭する時代を生き抜いたナタリア一家の物語。彼女の記憶にある会話が、ありのまま断片的に綴られている上に、彼女自身については僅かしか書かれていないため、極めてユニークな作品といえる。須賀さんの訳はもちろんのこと、それをつうじて伝わるナタリアの人をみる眼に魅了された。小説から多くの共感や自分自身の姿勢を見直すきっかけを得られたのは、江國香織さんの『冷静と情熱のあいだ』以来。運命の一冊との巡りあわせに、須賀さんとナタリア、そして本作をよみ須賀さんのファンになったという江國さんに、感謝したいと思う。2015/09/16