出版社内容情報
網で捕った蝶を殺し、虫ピンで止めて飾って眺めるのを生き甲斐にしていた孤独な青年が、ある日それを美しい女に試みようと思い立ち娘を誘拐する……一面、警察の調書のように非個性的でありながら、表現力豊かな文体で描かれたサスペンス小説の傑作。わが国でも公開された米映画の原作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
361
下巻はミランダの側から語られる。幽閉という思いもかけない境遇の中で、様々な想念が交錯する。彼女はいわば極限状態に置かれているのであり、そのことは常に強く意識されている。ただ、序盤ではまだ余裕も感じられたが、時間の経過とともに、しだいに強迫的なまでの圧迫に高まっていく。彼女の果たされなかった願望と、あり得たかもしれない現実。私たちは、そのことの本当の意味を知るのは、すべての幕が閉じてからである。どのように終息させるのだろうかと思いながら読んでいたが、最後はやや意外な結末だった。否、むしろ『コレクター』の⇒2023/01/22
まふ
77
下巻は閉じ込められたミランダの日記がしばらく続く。G.P.なる二十歳ほど年長の独身男性中年画家への愛の想いが綿々と綴られる。彼は女性とは愛無くしても交わるいわば遊び人だが、肉体関係を避けるミランダを特別に愛してきた。自由になったら彼を受け入れよう、などと決心する。しかし、その後一転し、事態は大きく動く…。ということで、これしかない結末を迎えるが、このキャリバンはタダモノではなく、後味の悪い終わり方。やはり予想通りの「読みたい」とは思わない内容であったが推理100選の「通過作品」だったことにしておこう。2022/12/12
匠
75
上巻の後半から、誘拐・監禁されていたミランダの日記がメインとなり、両者の想いとそのすれ違いぶりがよくわかる。フレッドに対して試みるあれこれは、本心と逃げるための策略とが交錯し、フレッドの性質と性格を物語る細かい描写や変化も見逃せない。とても不愉快な話なのに引き込まれてしまうのがすごい。単なるサスペンスではないドキュメントにも似た繊細な心情表現。今まで読んだ翻訳モノの中ではかなり優れた訳だったと思う。後味はとても良いとは言えないが、映画で不明瞭な点がすごくよくわかったので、読んでみて良かった。2013/09/26
NAO
68
【オール・ハロウズ・イヴ(All Hallow's Eve)読書会・サイコキラー作品】蝶のコレクターで冴えない夢想家フレッドが、サイコキラーに変貌するまで。その過程は、なかなか鬼気迫るものがある。そして、サイコキラーの心理を克明に描きながらも、ただそういった異常者の世界だけにとどまらず、フレッドを金や権力を振りかざした暴力世界の代表者に、ミランダを非暴力主義者の象徴として描き、現代社会の腐敗と病巣を描くという作者の手腕は見事だと思った。2017/10/10
きゃれら
24
ストーカー、あるいは監禁ものとして知られミステリーに分類されることもあるけれど、とんでもない重厚な文学だった。人間誰しも自分の人生の牢獄の中にいるが、その極限状態で考えること行動すること学ぶことがこの下巻では克明にある意味美しく描かれる。背景にあるのは唾棄すべき非道であり、悲劇であり、それに目を奪われるが書かれているのはそれだけではない。主人公の彼女(こっちだと思う)にも彼にも自分が投影され、恐ろしいほど引き込まれた。うーん、いまの年齢で読んだからこその感想かもしれない。2025/09/09