出版社内容情報
【全巻内容】1 ヘンリー六世第一部/2 ヘンリー六世第二部/3 ヘンリー六世第三部/4 リチャード三世/5 間違いの喜劇/6 タイタス・アンドロニカス/7 じゃじゃ馬ならし/8 ヴェローナの二紳士/9 恋の骨折り損/10 ロミオとジュリエット/11 リチャード二世/12 夏の夜の夢/13 ジョン王/14 ヴェニスの商人/15 ヘンリー四世第一部/16 ヘンリー四世第二部/17 から騒ぎ/18 ウィンザーの陽気な女房たち/19 ヘンリー五世/20 ジュリアス・シーザー/21 お気に召すまま/22 十二夜/23 ハムレット/24 トロイラスとクレシダ/25 終わりよければすべてよし/26 尺には尺を/27 オセロー/28 リア王/29 マクベス/30 アントニーとクレオパトラ/31 コリオレーナス/32 アテネのタイモン/33 ペリクリーズ/34 シンベリン/35 冬物語/36 テンペスト/37 ヘンリー八世
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
362
タイトルに掲げられているように、たしかに2人の恋の物語には違いないが、劇の全体はむしろトロイとギリシャの戦い(トロイア戦争)が中心であり、その中の挿話といった構造である。登場人物もアガメムノンやユリシーズ、カサンドラといった重量級が犇めき、タイトルロールが霞みかねないほどである。戦いはヘクターの死で戦況は大きく傾き、トロイの滅亡が予見されるが、劇はそこまでは描かない。また主人公たちの引き裂かれた恋の顛末も曖昧なままに終わる。劇としては途中で終わったかの感が強く残るのだが、それ故に現代性の評価が高いようだ。2021/12/12
まふ
100
初読。トロイ戦争を背景にトロイ王の末子トロイラスとクレシダとの恋愛を重ねた歴史物。登場人物は神話でおなじみのスーパースターたちである。ヘレンやパリス、ギリシャ王のアガメムノン、勇者アキレス、知恵者ユリシーズ(オイディプス)、予言者カサンドラ等々。物語は戦いの場面が中心で、トロイラスとクレシダの恋はタイトルほどにフィーチャーされない。しかもクレシダは純情とは言えぬクセモノであり恋物語としては中途半端で終わる。シェークスピアが「どうだ」とウィンクしているようで、私としてはこの「宙づり的」性格が気に入った。 2023/07/28
syaori
64
トロイア戦争が舞台の悲劇。ただ作者の意図は大いなる英雄たちを描くことにはなく、アキレウスはトロイア王女への愛から戦いを拒否し、ギリシア軍は統率権のため勇士の対立を煽る姑息な策略を巡らせ、ヘクトルは武装を解いたところを斬殺されるというように英雄も戦争も、タイトルを飾る二人の愛も矮小に卑小に描かれ、むしろ喜劇のように進行するのが目につきます。最後は戦争も恋も宙づりのままで「カタルシスは起こらない」。ただ本を閉じると、恋も戦争の大義名分も失ったトロイラスが残されるグロテスクな結末の悲劇性が奇妙に胸に迫りました。2021/11/12
松本直哉
24
戦争なんかそっちのけで恋愛にうつつを抜かしていたトロイラスが、敵方の将軍に恋人を寝取られたと知った瞬間、闘争心の塊になって戦場に躍り出る。ヘレネを掠奪されたメネラオスと同じことを、今度はトロイ側の男が繰り返してしまう。なんとも男という生きものはわかりやすすぎて、毒舌のサーサイティーズ(この劇では彼が合唱隊の役割なのだろう)の言うように、あんたらの頭の中は戦争とセックスだけしかないのだね。雄々しく戦って華々しく散るヘクトルとは違って、おめおめと生き残ってしまうトロイラスの運命も、かえって残酷で無情。2024/04/12
藤月はな(灯れ松明の火)
21
ギリシャ神話ではゼウスの饗宴に招かれなかった神が「一番、美しい女神へ」と題目の付いた金の林檎を放り込んだことがきっかけで始まったトロイ戦争。一番、冷静に状況を把握していたのは口が悪いサーサイティズだと思います。しかし、こんな大胆な愛の吐露もある演劇が今年、蜷川氏によって上演(全て男性キャスト)されていたなんて・・・///ラストの何も決着は着いていないのには確かにもやもやします。しかし、現実は人間関係における葛根を引き摺ってずるずると関係を続けていくから現実的なラストの提示だと思います。現実は怠惰な継続だ。2012/12/04