出版社内容情報
百年戦争の末期、〈神の声〉に導かれて戦列に立ち、危機に瀕するフランス王国を救ったが、その後、教会裁判で異端として火刑に処せられた聖女ジャンヌ・ダルク。ジャンヌ研究の第一人者が、処刑裁判・復権裁判の記録をはじめ信頼にたる事実史料を駆使して、その短くも感動的な生涯を見事に再現した好著。
目次
第1章 百合とライオン
第2章 辺境ロレーヌの乙女
第3章 オルレアンの包囲と解放
第4章 ランスの聖別・戴冠式
第5章 休戦の期間
第6章 コンピエーニュからルーアンへ
第7章 処刑裁判
第8章 王国の回復
第9章 処刑判決破棄裁判
第10章 死後のジャンヌ・ダルク
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
k5
52
本国フランスの大家による一冊だけあって、文庫・新書サイズのジャンヌ本としては抜群でした。トロワ条約から関わっていたというピエール・コーションの陰謀家ぶりが際立っていますし、処刑裁判の思惑周りが鮮やかに描かれていました。死後、わずか30年ほどで復権がなされるわけですが、処刑裁判の欠陥(例えばジャンヌが教皇への上訴を訴えているのに無視したとか、火刑前に破門されたはずのジャンヌに聖体を与えたり)が詳述されており、ドラマチックです。2021/12/10
ロラン
6
当時にあっては不当に貶められ、後世にあっては美化されがちなジャンヌ・ダルクという乙女。彼女の実像を客観的に把握するためには、裁判記録を中心とする史料の精査が欠かせないことを、改めて認識させてくれる。歴史学書として誠実な書かれ方をしている分、本書にドラマチックな面白さは期待しない方がよい。私のような西洋史学初心者には、はっきり言ってかなり読みにくかった。原書はフランス語で、自国史に一定の理解がある読者を想定しているのであろう。西洋史学専攻などで必要のある方以外には、あまりお薦めはしない。2017/05/05
Yuki
3
ジャンヌ・ダルクのことを知るにはよい一冊。史料の説明から、ジャンヌの生涯、裁判記録の証言から読み取れる性格なども含めて、具体的な史料の根拠と分析をもとに、わかりやすく、かつ詳しく論じられています。 ジャンヌ・ダルクが後世どう捉えられたかとかの話はあまりないので、それは別の書籍をあたったほうがよいかも。2017/05/11
卯月
2
再読。〈ジャンヌ私生児説〉(ジャンヌが農民の娘ではなく、王室の血を引く王女とする説)を強い調子で否定する以外は、「信頼できる資料にあることしか信じない、書かない」という著者の信念通り淡々と歴史的事実を綴る、薄くて読み易い本。この時代は血縁関係が難しく、ミシュレのジャンヌ本を読んでいた際「仏王家だけでなく、英国も系図くれ!」と思っていたので、巻末の「英仏王家略系図」は非常に有難い。出身地ドンレミから王太子のいるシノンへ旅する途中、ジアンを通過後、オルレアンに〈乙女〉の噂が伝わり始めたのは、位置関係見て納得。2015/07/22
甘木
1
同時代の史料、特に二度の教会裁判におけるジャンヌおよび証人たちの証言を重視・活用しているという点で、不要な誇張表現などなく淡々としていて読みやすい内容だった。 内容の異なる改悛の誓約書、教皇への上訴が無視されたこと、世俗裁判の判決がなかったことなど、最初の裁判がジャンヌの処刑という政治的な目的を異端裁判という名目で覆い隠したものだということが分かりやすい。わずか30年での復権も、シャルル7世側はジャンヌという存在は排除しつつも、彼女が異端では王位の正統性が危ぶまれるという思惑があったりするのだろうか。 2025/02/19