出版社内容情報
1894年、フランスの参謀本部に起きたドレーフュス大尉をめぐるスパイ疑惑は、当時の社会的・政治的大事件として世界の注目を集め、たんに大尉自身の有罪・無罪の問題にとどまらず、各方面に多大な影響をもたらした。本書は、この事件の全貌を提示し、その歴史的意味を明らかにする。
目次
ドレーフュス事件略年表
第1章 スパイ事件と裁判喜劇
第2章 ドレーフュス擁護の組織
第3章 再審へのあゆみ
第4章 名誉回復をめざして
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夜間飛行
142
共和派・保守派・社会主義者の入り乱れる政情、新聞の目まぐるしい報道合戦と世論の動き、虎視眈々と国境を窺うドイツとの諜報戦、その背景にある国際情勢などの時局がまずは興味深かった。本書は基本軸においてドレーフュス裁判の再審要求運動を肯定しつつも、それがドレーフュス本人とは無関係なイデオロギーになっていく不気味さや、各階層に存在する反ドレーフュス派の人々の立場も公平に記述している。弾劾記事を書いたゾラは自分が告訴されることで《ドレーフュスの十字架を胸に抱き、彼に代わって正当な裁判をやり直させ》ようとしたそうだ。2020/04/26
chanvesa
30
「あるものは新聞の人民投票的性格に注目して、現体制をこえたところで、しかもそれに反対の立場で利用することによって、新聞の君主の欠けた専制主義の手段としてもちいたのである。(134頁)」パンドラの箱は開けられ、フランスにとどまらず世界のいたる所に君主の欠けた専制は広まり、今は新聞ではなくSNSの様なメディアに移行しているのかもしれない。対象はユダヤ人であること以外にも、人種や職業だけではなく、何かの存在も、その仕打ちの対象たりうる。そして、名誉回復後にほとぼりが冷めると、何事もなかったように波が引いていく。2022/01/16
きゃれら
27
プルースト「失われた時を求めて」で何度も言及される「ドレフュス事件」だが、事件の内容は全く触れられないので、全容を知るための読書。非常に多く人名が出てきて、それぞれが事件に果たした役割の重要度が分からないので正直極めて読みにくかった。映画「オフィサー・アンド・スパイ」で概要をつかんでいなかったら、読了できなかったかも。ただ、事件がフランス社会に与えた影響の大きさは理解できたと思う。新聞が騒動に果たした軽薄な役割も克明に描かれていて、今の日本社会と全く同じなのが印象に残った。2023/03/24
雷電爲右エ門
1
『オフィサー・アンド・スパイ』を見て世界史として「ドレフュス事件」は知っているがそういえば詳細はそこまでしらないな、となり購入。映画では証拠捏造とエステラジー判明でサクッと恩赦の流れだったが、思った以上に紆余曲折ありであった。共和派、右翼、社会主義者、しかも共和派の中でも急進派と穏健派があって左右入り乱れて離合集散していく様は凄まじい。しかしドレフュス置いてきぼりで政局としてフランス共和政とは、みたいな話になっていっちゃうのね・・・。2025/04/27
Fumihiko Kimura
0
「無理が通れば道理引っ込む」。「世論」の害悪、この典型を見る。2012/11/24