出版社内容情報
官能的な雰囲気のなかで親子関係の壮絶な断絶を描く表題作、謎の婚約者のアパートで一夜を過ごすことになった女性の恐怖を描く「なんど真夜中に……」など、いずれも恐怖のなかに笑劇を宿した、軽妙にしてグロテスクな短篇の数々。幻想的な詩情とひそやかな暴力の織りなす世界が展開される。
内容説明
官能的な雰囲気のなかで親子関係の壮絶な断絶を描く表題作、謎の婚約者のアパートで一夜を過ごすことになった女性の恐怖を描く「なんど真夜中に…」、ボウルズが完璧なまでの人間嫌いを発揮して描きつづける悲惨な夫婦の最初の例となる「コラソン寄港」など、いずれも幻想的な詩情とひそやかな暴力が織りなす世界。恐怖のなかに笑劇を宿した、軽妙にしてグロテスクな短篇の数々。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
nobi
71
ジブラルタル海峡に面したモロッコの港町タンジール。ポール・ボウルズは21歳の時に作曲の師コープランドとともにこの街を訪れ、後に永住を決意したという。この短編集も11/15が“タンジールにて”の作品。それ以外の舞台も南米やスリランカ。西欧近代の孤独感は異国の空気を求めているのに楽園でも解消どころか亀裂が深まり時に激しい憎悪が吹き出す。心の葛藤はジャングルに遜色ないほどに深く寂しさは欲望を満たしても消えない。ただ心は外に向かって開かれている。例えば足もとのトカゲに。唯一微笑ましかったのはモロッコ昔話風の物語。2019/12/07
jahmatsu
31
ボウルズ日本編集の短編集。幻想的という言葉がホントしっくりくる珠玉作品の数々。モロッコ〜イスラムの人々の日常が独特なシチュエーショと重なり、いい具合に暴力というスパイスが所々に効いていくる。たまらん。2019/09/16
ぽち
13
短編集。先日「シャルタリング・スカイ」のリバイバル上映を見てきてえらく感動、手持ちのコレを読み出す。テーマ毎に3つのパートに編纂されていて、割りと日常の瑣事を書いたような「Ⅰ」が正直かなーり退屈で投げ出しそうになったのだけどエキゾチシズムの煙がもうもうと立ち込める「Ⅱ」フランスの幻想文学的な編(も)収める「Ⅲ」はなかなか。ラストの「サンタ・クルス港を出てから四日目に」はロードノヴェル的で個人的に大好きです。2016/04/11
mejiro
8
「遠い木霊」「カフェの跡継ぎ」「モフタールと死の夢」「なんど真夜中に」「ラハセンとイディルの物語」がおもしろかった。張りつめた空気をはらんだ短編集。 2015/03/03
渡邊利道
4
とうとつにボウルズを再読したくなった。「家族の崩壊」「狂気と復讐」「現実と夢想の境界」の三部構成の短編集。登場人物たちがつねにぴりぴり苛立って、すぐそこに深淵が開く切り立った断崖を歩くかのような緊迫した作品ばかり。現実と幻想の境目が非人間的な環境の中で溶け合うといってもそこにまったく自由さが感じられずますます閉じ込められていく感じなのがすごい。そのとき死はほとんど恩寵に似る。2017/02/20