出版社内容情報
かつて著名な報道写真家であった父、精神のバランスを失った娘――交互に語られるモノローグによって、彼らの生の断片が、ねじれた愛の物語が紡ぎだされ、“この世界”の状況が鮮烈に浮かび上がる……今、イギリスで最も注目を集める作家スウィフトが放つ、力強い傑作小説。
内容説明
著名な報道写真家であった父とその娘―。ふたりのモノローグによって、三代にわたる親子の葛藤が、そして二十世紀という時代が、鮮かな語られる…。感動的な物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
85
ウォーターワールドの後に書かれた作品だと思うと、歴史的語りの点からも、家族の歴史の点からも少しぼやけた感じを持つ。ベトナム戦争に対する批判や、IRA(的なもの)を描いているからには戦いは戦いをうむという作者の立ち位置はよりハッキリしているが、なんとも言えぬモヤモヤしたものが残る。女性に担わすものが多いような印象を最初は持ったが、男性も心身ともに傷を負っている。それぞれの役割がクラシックなのかな。そこかもしれない。2023/11/07
うた
9
『ウォーターランド』で人と土地の歴史の関係を濃厚に語りあげて、私をフェンズへ誘ったグレアム・スウィフト。そして今作では二十世紀、騒乱のヨーロッパへ。交互に語られるモノローグから、あれこれと想像をめぐらしながら、毎章はっとさせられる記述に、例えばカメラについて父の義手について、出会える。驚くほど知的で、読む楽しみにあふれた一冊でした。2012/01/29
きゅー
8
『ウォーターランド』や『マザリング・サンデー』が傑作であるとして、それらに及ばないとしても個人的には愛着の強い一冊。親子三代(祖父と父、その娘)の分かりあえなさの物語なのだが、その陰にはすでに亡い祖母と母の姿がある。彼女たちの死の哀しみを、遺された者たちはお互いにぶつける。誰の責任でもないからこそ、誰も受け止められない悼みが宙に浮き、時間だけが経っていく。モノクロームの時代からカラーの時代へと移ったが、いつだって人間の人生が単純であったことなどなかった。2024/04/08
Mark.jr
4
報道カメラマンとして名を馳せながら、引退した父親のハリー。そんな彼に反発して、イギリスへ渡った娘のソフィー。そして、武器製造の企業で成功した祖父のロバート。この三人の一筋縄でいかない関係性を軸に、二十世紀の歴史を素描する小説。良い作品なので、Uブックスあたりで復刊して欲しいですね。2020/06/05
Mayu
4
私にはちょっと難しすぎたかも…。ちゃんと理解できたか疑問ですが、家族というものの難しさ、職業が人を引きずりこむ力、みたいなものを感じました。その両方が絡みあって、すごく複雑で、登場人物に嫌悪感を感じるときには、自分自身の欺瞞みたいなものにも気づかされるようで、すごくずしっときました。ハリーが新しい伴侶を得ること、ソフィーが父の結婚に立ち会う決心をすることで、この家族が少しずつでも幸せな方に行けたらなぁと思いました。2014/05/03