内容説明
パリでもっとも不器用な男の話。孤独がぼくを押し潰す。ともだちが欲しい。本当のともだちが！…実際、友情を示してくれる人には、ぼくはとことん優しくなれる。年金もベッドも独り占めしない。逆らったりなんか絶対にしない。ぼくの望みは、その人の望みを叶えることだけだ。犬みたいにどこにだってついていく。その人が冗談を言ったら、ぼくはきっと声をあげて笑うだろう。もしも誰かがその人を悲しませたら、ぼくは涙を流すだろう。
著者等紹介
ボーヴ，エマニュエル［ボーヴ，エマニュエル］［Ｂｏｖｅ，Ｅｍｍａｎｕｅｌ］
１８９８年に、パリの貧しい移民の家庭に生まれる。コレットに見いだされ、１９２４年に『ぼくのともだち』でデビュー。この作品と『Ｌａ Ｃｏａｌｉｔｉｏｎ（同盟）』の二作により、１９２８年にはフィギエール賞を受賞した。ユーモアとペーソスを交えて描いた、都会で孤立する不器用な人物像が、多くの読者の共感を呼び、一躍人気作家となる。１９４５年病没。いかなるイデオロギーとも無縁なその作品は、戦後、アンガージュマン（政治・社会参加）文学の隆盛の陰に隠れ、次第に忘れられていったが、１９７０年代後半に輝かしい復権を果たした。今日では複数の言語に翻訳され、世界中で広く読まれている
渋谷豊［シブヤユタカ］
１９６８年生まれ。早稲田大学第一文学部フランス文学専修卒。パリ第四大学文学博士。専門は、フランス現代文学、日仏比較文学（本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです）
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
106
読んでいて、切ない気持ちになる長編。軍隊帰りのヴィクトールは友達が欲しいのだが、なかなか見つからずにパリを漂うように生きている。孤独な人にとっては友達は何より大切なものなのかもしれない。今度こそ友達ができると先走って妄想するヴィクトールの姿は可笑しいけれど、笑えない哀しさがある。穂村弘氏が推薦文を書いているそうで、ほむほむの『世界音痴』と共通する感性を感じた。2014/09/03
紅はこべ
102
この主人公、一言で言うといじましい。傷痍軍人年金を受給しているし、『のけ者』の主人公に比べたら、食べていけるだけ恵まれているのに。軍隊経験がありながら、何だろう、このコミュニケーション能力のなさ。〈ぼくが求めているのは、不幸せなともだちだ。ぼくと同じような居場所のない人。一緒にいても義理や恩など感じさせない、貧しくて優しい人〉〈愛し合っているカップルはエゴイストだ〉そんな了見じゃいつまで経っても友達はできないね。2019/11/20
KAZOO
88
表紙がかわいいのと読み友さんの感想を見て図書館から借りてきました。友達探しというとなんか少し暗い感じもしますが、ユーモアがあちらこちらにちりばめています。読んでいるとわかるのですがフランスの小説なのですが、どちらかというとアメリカの小説のような印象を受けました。非常にきめ細かな描写があったりして読んでいて私の趣味にはあいました。2015/07/06
白のヒメ
59
主人公は孤独が嫌いで人と交わりたいと思うけれど、友達に欲しいのは自分と同じ不幸な存在。友達になれそうな男の彼女が美人だと知ってがっかりし、けれど足が不自由だと知ると飛び上がって喜ぶ。そしてその彼女を寝取ろうとさえするのだ。絶えず求めるのは自分が見下せる相手。それを友達だと信じている。もう最低でどうしようもない主人公だからこそ、おかしくて笑ってしまう。こういうのを苦み走ったエスプリとでもいうのだろうな。2015/12/23
ふう
53
ちょっとくたびれた犬、そしてため息。この表紙の印象が、作品を読み続ける間、頭から離れませんでした。考えられないほど孤独で、いつもともだちを、自分をわかってくれる誰かを求めている青年。自信がないのに自信過剰で、対等を装いながら少しだけ優位に立ちたがる…若さというのはときに厄介なものです。ずっとともだちを求め続ける方がいいのか、求めることをあきらめて、孤独とため息をともだちにした方がまだ救われるのか、タイトルをじっと眺めて考えてしまいました。でも、やっぱり人はそんなに強くはなれませんよね。2014/07/19
