内容説明
家を追い出された息子と、“脱皮”を繰り返して若返っていく父親の物語。第50回岸田國士戯曲賞受賞作品。
著者等紹介
佃典彦[ツクダノリヒコ]
1964年愛知県名古屋市生まれ。名城大学卒業。劇団B級遊撃隊主宰・劇作家・俳優(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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新田新一
16
自分の父親が脱皮を繰り返して、若返っていくというシュールな趣向が面白い劇です。私は高校の時に演劇部で、大人になってからも教会学校などで脚本を書いていたので、演劇が非常に好きです。この『ぬけがら』は自分でぜひ演じてみたいと思える良い作品でした。脱皮していく父親に息子は、振り回され続けます。非現実的なことが書いてあるのですが、この父と息子の関係は、現実の世界につながっている気がしました。親子であっても、完全に理解し合うのは容易ではありません。親子同士のコミュニケーションの難しさが、この劇の根底にあります。2024/02/09
こばやしこばやし
10
母親の葬式を済ませた直後から、認知症の父親が脱皮して若くなっていくという話。カフカ的な世界を彷彿とさせるが、痴呆の具合や若い父親との会話の妙がありコミカル。また、戯曲なので舞台上での動きとか想像すると非常に楽しい。巻末の「あてがき」によると、作者の佃さんの介護に伴う戸惑いや実父の生命力がモチーフになっている様子。母親の死と父親の脱皮、実は平行して息子である「男」の離婚の危機が生じる。「男」の浅はかな行動が離婚や母親の死の原因なのだが、その浅はかさが観客を現実に繋ぎ止めるユーモアの錨なのかも知れない。2024/09/16
ふう
4
佃典彦の第50回岸田國士戯曲賞受賞作。6人の父と過ごした夏の日の一週間を描くひと夏の物語(無理やりまとめすぎ?)。肉体的に脱皮を繰り返す父を前にして精神的に脱皮していく息子。脱皮した父たちが舞台上にゴロゴロ転がってるのってよくよく考えるとかなりキモチ悪いけど確かにとっても演劇的。ただ脱皮する度に若返る父に昭和史を重ねるのはちっと安易で中途半端な気も。まぁ”私戯曲”だからそうなっちゃうか。なんとなくだけどこれ映画のが合いそう(演劇的とか言っておきながら)2016/06/02
nick
1
いやこれはマジ面白い。実際に舞台で見てみたい!父親がぬけがらを脱いで、次第に若返っていく。ぬけがらを見て「えぇ、これ将来の俺?こんなのやだよぅ」。親が一人の人間であったことを知る、衝撃と、ざらついた味わいの自立。とても面白く拝読した。2011/04/22
あもすけ
0
過去の自分を振り返るとしてもあくまで自分のなかでの事で、年代別にワラワラと分離した自分と、他人の様な感覚で食卓を囲むというのは妙に気持ち悪くて笑える。手柄を主張したり責任逃れをしたりと賑やかで可笑しくて、でも同時にふとした会話が切なく泣けてきて、息子としての立場では、報いることができなかった人の気持ちを目の前に突きつけられてしまうみたいで辛い。今を脱ぎながら若返っていくんだけど、脱ぎ捨てられた老いたぬけがらとしては若い頃を脱却して今がある、みたいな感覚もあって、今の自分をいろんな形に分解して混ぜて思った。2017/01/04