内容説明
本書は、水俣病の根源に存在するもの“それは差別である”という仮説を、水俣病以外の事例や外国、とくにアジアの国々との関係において学際的に研究することによって明らかにしようと試みたものである。権力と庶民、中央と地方、都市と農村、資本と労働者、健者と病者、そして先進国と途上国といった構図と環境問題や健康問題との関係を追ってみた。
目次
第1部 水俣病差別の構造―水俣病症候群(水俣病事件における差別―水俣病の真の原因;水俣病刑事事件の意義―胎児の人としての復権;裁判における水俣病病像論―医学にとって認定とはなにか;ひとのいのちの値段―この痛苦に軽重があるか;水俣工場労働者の健康障害―地獄の工場うちそと)
第2部 棄民の構造―人間疎外の状況(九州の公害・労災の背景―水俣、三池、土呂久、カネミ油症事件;弱者に集中する被害―毒ガス後遺症とじん肺患者;28年めの訪問―石黄工場廃液による砒素中毒事件のその後;傷だらけの海に生きる―金武湾の開発と環境汚染;精神医療を想う―環境社会学の視点から)
第3部 環境汚染を追う―世界のあちこちで(公害の流れ―中毒の社会発生病理;社会病なるがゆえの難病―カナダ・インディアンの水銀汚染事件;カリブ海とマンタロウ川で―南米の環境汚染を追って;胎児からのメッセージ―臍帯保存のルーツを追って;住民大量死の現場―ノーヒロシマ、ノーボパール;韓国のイタイイタイ病―温山工業団地の環境問題)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
えんさん(연싼)@読書メーター
2
水俣に行ったことがあるにも関わらず、関連書籍を読むのはこれが初めて。「水俣は鏡である。この鏡は、見る人によって深くも、浅くも、平板にも立体的にも見える。そこに社会の仕組みやありよう、そして、みずからの生きざままで、あらゆるものが残酷に映し出されてしまう。」(P3) 環境問題だけではなく、チッソなど過酷な労働現場で働く者たちなど、生きていくうえで何を大事にすべきなのかを水俣は訴えようとしている。2016/02/16
YT
1
水俣病の発生から60年、この本が出てから30年。水俣病研究で著名な筆者が亡くなって5年。筆者が亡くなったときのNHKの特集番組で水俣病について初めてまともに知ることになり、以後色々気になっていた。飯島和一「出星前夜」が受賞した大佛次郎賞の受賞作一覧に本書を見つけ、会社の金で購入してもらう。水俣病の根元には差別(チッソ関係者とそれ以外、チッソの正社員と工員、市民と漁民)がある。そして公害病は研究者、工場労働者、市民の順に移動。先進国から発展途上国へと移動する(∵規制の緩さ)。2017/01/31