出版社内容情報
■2012年12月に民主党政権を引き継いだ第2次安倍政権は、2020年8月の突如の退陣声明で8年弱の長期政権を終えた。しかし、この間に長期安定政権を生かした、主要な経済政策の成果は見られていない。第2次安倍政権では、小泉政権や第1次安倍政権で経済戦略の司令塔となった経済財政諮問会議をほとんど活用せず、未来投資会議等、新しい会議を次々と作るだけで目先の話題つくりに終始した。これは「働き方改革」や「全世代型社会保障」という看板政策についても同様で、真の成長戦略には不可欠であるが、既得権力に反発される多くの構造改革を封印することで、「野党と比較してマシ」という世論に支えられた長期政権を維持してきた。この間に、急速に進展する少子高齢化、情報通信技術の発展、経済活動のグローバル化等、大きな経済変化に対応すべき貴重な時間を失ったことの社会的コストはきわめて大きい。ここで改めて安倍政権の8年間を振り返ることで、新政権が向かうべき経済政策の内容を明確にする。
■安倍政権に対しては、大企業寄りの「保守主義」という評価が定番であった。しかし、その現実の政策は、春闘賃金の引上げへの介入、同一労働同一賃金、長労働時間の抑制等の働き方改革に重点をおいた。また、コロナ危機への対応でも、国民一人当たり10万円の給付金や雇用調整助成金の大幅な拡大等、むしろ旧民主党が唱えても不思議ではない大きな政府型の政策が目立っている。安倍政権は、本来、旧民主党が目指す政策をいわば横取りすることで、野党にとっては対立軸となる経済政策を構築できなくなる。安倍政権が野党寄りの政策を自ら推進することで、その支持率の基盤を広げることは、長期政権を維持する上では効果的である。しかし、その犠牲となっているのは、本来の自民党の「小さな政府」と「市場競争を生かした経済活性化」という、保守本流の経済政策である。これはドイツのシュレーダー首相が、本来は左派政権であるにも関わらず、2000年代前半期に市場主義的な雇用改革や、抜本的な年金改革を断行したことで、その後の選挙では大敗北したものの、欧州の中でドイツ経済繁栄の基礎を築いたことと対照的である。
■今回のコロナの国境を越えた大感染は、日本だけでなく、世界経済にも大きな打撃となっている。ポストコロナの新しい時代に対応するためには、情報通信技術の積極的な活用と、それに対応した従来の働き方の抜本的な改革が必要とされる。また、東アジアの各国が直面する少子高齢化社会への対応についても、その先頭を走る日本への期待も大きい。その意味でも、菅新政権は、これまでの安倍長期政権の経済政策を反面教師として、同じ過ちを繰り返さず、本来の構造改革を実現することが急がれていると主張する。
内容説明
持続可能で競争力のある経済へ。国民の人気取りで、野党の主張を横取りするような「大きな政府」路線から決別し、痛みや反発を厭わない抜本改革を。日本的雇用慣行の見直し、ジョブ型を起点とする労働市場改革、年金支給年齢の引き上げなどを提言。数々の規制改革に挑んできた著者の集大成。
目次
第1章 安倍政権の経済政策を評価する
第2章 日本的雇用慣行と働き方改革
第3章 長時間労働の改革とテレワーク
第4章 同一労働同一賃金と非正規社員問題
第5章 解雇金銭解決のルール化
第6章 高年齢者雇用安定法の弊害
第7章 女性の働き方改革
第8章 全世代型社会保障改革の理念と現実
第9章 大きな改革を避けた年金改革法
第10章 医療と介護保険改革
著者等紹介
八代尚宏[ヤシロナオヒロ]
昭和女子大学副学長・グローバルビジネス学部特命教授。1946年生まれ。国際基督教大学教養学部・東京大学経済学部卒業、米国メリーランド大学経済学博士。経済企画庁計画官、OECD経済統計局主任エコノミスト、日本経済研究センター理事長、国際基督教大学教授などを経て現職。規制改革に関わる会議の委員を延べ12年間と第1次安倍内閣で経済財政諮問会議委員を務めた。主要な著書に『現代日本の病理解明』(日経経済図書文化賞、東洋経済新報社、1980年)、『日本的雇用慣行の経済学』(石橋湛山賞、日本経済新聞社、1997年)などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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