出版社内容情報
訳者序文
まず初めに,本書を出版するに至った経過について触れたい.と言うのも,それが本書を出版する目的になったからである.
本書を出版する契機は,約40年前に遡ることになる.当時,生産管理を1つの統合システムとして展開して行こうという動きが米国の製造企業を中心に提起され,我国でも,これに対処するための勉強会を始めたい,という要望が実務界から出てきた.そこで当時の早稲田大学生産研究所(アジア太平洋研究センターの前身)の中に生産管理システムの研鑚を行う場として,実務界を中心に小さな研究会を発足させたのである.この研究会は,その後約40年間,会員も徐々に増え,現在,生産システム開発研究会(JPICS)として,我国の代表的企業約100社を超える会員により研究,研修活動を続けており,諸外国の同種団体との交流も盛んである.特に,米国のAPICS(会員55,000名)との提携関係は長く,交流も頻繁に行われている.
APICSは,生産,物流管理の啓蒙,教育活動に力を入れ,特に,生産,物流管理者を養成するため,生産管理士(CPIM),物流管理士(CRIM)などの資格供与および,そのための教育,訓練活動に熱心であり,JPICSに対しても,再三,CPIM, CRIM取得のための教育,訓練プログラムを行うよう要請してきた.
しかし,我々JPICSとしては,この要請を積極的に受け入れようとはしなかった.当時,日本では,この種の資格はあまり重視されておらず,また我々メンバーにとっては,試験の内容があまりにも初歩的,基礎的に思えたからであった.
その後,約20年が経過し,JPICSでの検討テーマや内容も変化し,高度化して行った.最近では生産管理や物流管理の基礎知識や考え方(コンセプト)などは,当然既知のものとして,ERP, APS, SCM, ・・・など,むしろ応用動作の方が検討課題として取り挙げられ,会員の興味の的にもなっている.この傾向は,単にJPICSの会員だけではなく世の中,全般の傾向でもある.
しかし,一方ではより高度な応用動作(アプリケーションシステム)を扱う中で困った現象が出てきた.すなわち,
・基礎的,基本的部分を知らずに(あるいはブラックボックス化して)いきなり応用動作に取り組んだため,問題が生じても本質的解決ができずに,ただ四苦八苦しているだけである.
・話は高邁であるが,それを具体化することができない.
・システムを,技法中心にしか理解していないため,本来,本質的に有意なシステムとして導入できるにもかかわらず失敗してしまう.
これらの問題は,すべて生産管理(生産システム)に対する基本的考え方や基礎知識の欠如によるものであり,特に最近はその傾向が強い.いわば生産知らずの生産管理屋の出現である.何事でも土台(基礎)のないところに本格的発展はないのである.
我々は約40年間,JPICSでの動向および生産管理を取り巻く実態を見つめてきた.その結果,システム導入を成功させるにはここで改めて原点に戻り,生産管理の基礎をしっかりと身につける必要があると考えている.そのための教材として,世界各国で広く使われているアーノルド教授の『マテリアルマネジメント』が適切なものであると考えた.この本は前述したAPICSでのCPIM/CRIM取得のための必須教科書としても使われており,また,生産管理に関する用語辞典の原本としても有用である.なお,本書は『マテリアルマネジメント』3版を主体に翻訳したが,紙面の関係で第15章のジャストインタイム生産方式と第16章の全社的品質管理は他書に譲ることにした.
SCM, ERPおよび各種アプリケーションパッケージの開発,導入,さらに生産─物流システムの再構築,グローバル展開などは,今後ますます進展していくであろう.そのためにも,これらに本格的に取り組める土台のしっかりした人材育成が必要である.本書が,そのための布石となればと願っている.
2001年10月31日 訳者代表 中根 甚一郎
まえがき
本書は大学生を対象としたマテリアルマネジメントの入門テキストであり,経営工学や生産工学,あるいは経営学のカリキュラムで採用されている.さらに,すでに企業で実務に就いている人にも,たとえその人がマテリアルマネジメント関係の仕事に従事していようがいまいが,適していることが立証されている.
本書は北アメリカのみならず世界中の大学で広く採用されている.また,BSCM(サプライチェーンマネジメントの基礎)に対するCPIM資格検定試験の参考書として,APICS検定マニュアルに加えられている.本書は,南アフリカ,オーストラリア,ニュージーランド,フランスその他の国々の生産在庫管理協会で採用されている.また,多くのコンサルタントが,クライアントの社内教育でも採用している.
本書の第2版はBSCM検定試験の内容の大半をカバーしてはいるが,欠けている部分があった.第3版ではこの欠けた部分を追加し,新たに2つの章を加筆した.製品と工程(第14章)および,全社的品質管理(第16章=日本語版では割愛)である.マテリアルマネジメントはいかなる工程であっても対処することができなければならない.そして工程は主として製品設計により決まる.第14章では,製造のしやすい製品設計および製造工程の設計・選択の考え方およびその重要な要因について検証している.
マテリアルマネジメントのもつ意味は人により異なる.本書では,供給業者から顧客までのマテリアルの流れの中で発生するすべての活動を対象としている.その中には物的供給,操業計画と管理,物的流通が含まれる.これ以外にもビジネスロジスティックスやサプライチェーンマネジメントという用語を使っている.ビジネスロジスティックスでは輸送や物流を強調しているが,工場内での事物にはあまり触れていない.輸送と物流に関する章があるが,本書では操業計画と管理に重点をおいている.
物流と操業は,資材の流れをプランニングしコントロールすることにより,そして顧客サービスレベルを達成するためにシステム資源を利用することにより管理される.これらの活動はマテリアルマネジメントの責任であり,製造企業内のあらゆる部門に影響を及ぼす.マテリアルマネジメントシステムが適切に設計されていないと,流通と製造システムは効率が悪くコストがかかる.製造や流通に従事している人は資材の流れに影響を及ぼす要因について,十分に理解している必要がある.本書の目的はこの理解をもたらすことにもある.
APICSは,生産在庫管理の知識体系,概念,用語の定義をしている.これは生産在庫管理の発展と理解という点で重要であるばかりではなく,コミュニケーションを明確に行ううえでも重要である.本書では,可能なかぎりAPICSの用語と概念に従っている.
初めの6章はプロダクションプランニングおよびコントロールを扱っている.第7章は購買に関する重要事項を論じ,第8章は需要予測を論じている,第9, 10, 11章は在庫管理の基礎を述べている.第12章では物的在庫と倉庫業務について論じている.第13章は輸送,梱包,マテハンを含む物流システムの基本事項を扱っている.第14章は製品と工程の設計に影響する要因について述べている.
本書はサプライチェーンマネジメントと生産在庫管理の基礎のすべてをカバーしている.本書では,本文に適宜例題を配し,章末に質問と問題をおき,読者が論理的に内容を理解できるように工夫している.また単純でとっつきやすいことに主眼をおいている.これは本書を使っている学生たちが証明してくれるであろう.
私は,友人,同僚,フレミングカレッジの学生たちから多くの助力と励ましをいただいた.他大学の友人,多くのAPICSのメンバーに対してもその支持と助言に感謝の意を表する.また本書の執筆における,妻ビッキーの援助と忍耐に対して感謝する.
本書を,私に最も多くのことを教えてくれた人たち,すなわち私の教え子に捧げる.
J. R. トニーアーノルド・名誉教授・フレミングカレッジ・オハイオ州ピーターボロー
目 次
まえがき
訳者序文
第1章 マテリアルマネジメント入門
1.1 はじめに
内容説明
本書は大学生を対象としたマテリアルマネジメントの入門テキストであり、経営工学や生産工学、あるいは経営学のカリキュラムで採用されている。さらに、すでに企業で実務に就いている人にも、たとえその人がマテリアルマネジメント関係の仕事に従事していようがいまいが、適していることが立証されている。
目次
マテリアルマネジメント入門
生産の計画システム
基準生産計画
資材所要量計画
製造能力のマネジメント
製造活動管理
購買
予測
在庫の基礎
発注量
独立需要品目の発注システム
物的在庫と倉庫管理
物的流通
製品設計と生産設計
著者等紹介
アーノルド,J.R.トニー[アーノルド,J.R.トニー][Arnold,J.R.Tony]
フレミングカレッジ名誉教授。オハイオ州ピーターボロー在住
中根甚一郎[ナカネジンイチロウ]
1934年生まれ。早稲田大学アジア太平洋研究センター、大学院アジア太平洋研究科教授
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