出版社内容情報
本書は,前職時代に20年間在籍した機械振興協会技術研究所での仕事と独立してからの10年余にわたっての非円形歯車の設計と製作に関する研究開発と応用,さらに産業界への導入活動の成果に基づいている.関わりあった期間だけは結構長いが,内容はまだまだ未熟である.浅学無恥にあえて執筆する気になったのは,大きく3つの理由がある.
その1つは,非円形歯車がもっと使われてよいはずだという強い考えが背景にある.そのことは,この歯車の魅力的な特長を多くの皆さんに知っていただきたいからである.その魅力的な特長をいくつか挙げてみるならば,
・簡潔な機構で小形化できる.
・任意の不等速回転伝達が得られる.
・かみ合い歯面のすべり接触が小さいので,磨耗疲労が少なく,耐久性に優れている.
・重負荷の伝達が可能である.
など多くの優れた特長を持っている.これらの特長を持つ非円形歯車をぜひ知っていただきたい.
つぎに,非円形歯車に関心を持たれる方々が,何か参考書はありませんか?ということを時折尋ねられることがある.残念ながら著者は,そのような書物を知らないし,また,ないのではないかと思っている.そこで,参考書となりえるか極めて不安があるが,これから非円形歯車に関心を持っていただく人達のために,あえて浅学を省みず執筆させていただいた.少しでも,非円形歯車のファンが増えれば有難い.
最後になり恐縮であるが,私みたいな凡人がこのような本を書かせて貰えるようになったのは,めぐり合えた5人の恩師のお陰である.5人の恩師とは,出会いの順で挙げるならば,横川和彦先生(明治大学名誉教授),窪田雅男先生(元機械振興協会技術研究所所長),中田 孝先生(東京工業大学名誉教授),林 輝先生(東京工業大学名誉教授)および牧野 洋先生(山梨大学名誉教授)である.これらの先生に出会えることがなければ,機構学のおもしろさに出会うことも,学ぶこともなかったであろうと思う.しかし悲しいことに,この1,2年の短い間に,横川先生,窪田先生,中田先生は他界されてしまった.いずれの先生も非円形歯車の普及に期待してくれていた.力不足で,ほとんど期待に応えられず申し訳なく思っているが,本書の出版で少しでもお返しできればとの思いからであった.3人の先生に対し,生前のご指導に感謝し,ご冥福をお祈りします.
ところで,本書を読み返してみて,非円形歯車の設計や製作する過程で,やや計算量が多く見受けられるので,とっつきにくく感じられるかもしれないが,現在,低コストで高性能なコンピュータが手軽に利用できる時代なので,それほど面倒なことではない.本書の出版をきっかけにして,非円形歯車の魅力を見出し,効果的なさらなる応用例が出てくるならば,この上とない著者の喜びである.
本書は,永年にわたり,技術誌の執筆でもお世話になり親しくお付き合いいただいている,日刊工業新聞社書籍編集部の武藤朔恵氏の励ましもなければ世に出なかったであろう.ここに,改めて厚くお礼を申し上げます.また,校正の段階では,日刊工業プロダクションの小川純子氏にも大変お世話になりました.厚くお礼を申し上げます.
2001年6月 香取 英男
推薦の言葉
まえがき
第1章 緒 論 1
第2章 ピッチ曲線の設計理論 7
2.1 緒 言 8
2.2 角速比変位による不等速な回転伝達の定義方法 8
2.3 角速比曲線の定義方法 11
2.4 ピッチ曲線および歯数の算出 13
2.4.1 ピッチ曲線式の導入 13
2.4.2 歯数の算出 14
2.5 仕様限界 15
2.5.1 かみ合い圧力角の算出 15
2.5.2 ピッチ曲線の曲率半径 17
2.5.3 歯の切下げ 18
2.6 ピッチ曲線に関連する式の導入 18
2.7 設計に必要な仕様と設計例 20
2.7.1 設計仕様 20
2.7.2 設計例1 23
2.7.3 設計例2(歯数比が1でない場合) 26
2.7.4 設計例3(内歯車を含む場合) 30
2.8 結 言 34
第3章 歯形輪郭の創成理論 35
3.1 緒 言 36
3.2 かみ合いの機構学的必要条件 36
3.3 直線ラック形工具による歯車歯形の創成 38
3.3.1 歯形創成の方法 38
3.3.2 ベクトル解法 40
3.3.3 処理例 43
3.4 ピニオンカッタによる歯車歯形の創成 44
3.4.1 歯形創成の方法 44
3.4.2 ベクトル解法 45
3.4.3 処理例 48
3.5 かみ合い長さおよびかみ合い率の算出方法 48
3.5.1 かみ合い長さおよびかみ合い率 49
3.5.2 ベクトル解法 50
3.6 結 言 54
第4章 CNCによる歯切り加工理論 57
4.1 緒 言 58
4.2 歯先外周加工理論 58
4.2.1 加工方式の種類 58
4.2.2 工具経路の算出方法 61
(1) 平面輪郭加工方式 61
(2) 立体輪郭加工方式 63
4.3 インボリュートフライスによる成形歯切り理論 65
4.3.1 成形歯切りの原理 65
4.3.2 インボリュートフライスの選定方法 67
4.3.3 本原理のCNCフライス盤への適用 68
(1) 制御軸の構成 68
4.4 直線ラックホブによる創成歯切り理論 71
4.4.1 創成歯切りの原理 71
4.4.2 直線ラックホブの形状 72
4.4.3 本原理のCNCフライス盤への適用 72
(1) 制御軸の構成 72
(2) 創成歯切りを行わせる動作の制御方法 72
4.5 ピニオンカッタによる創成歯切り理論および
CNC歯車形削盤の開発 76
4.5.1 創成歯切りの原理 76
4.5.2 ピニオンカッタの形状 76
4.5.3 CNC歯車形削盤の開発の基本構想 76
4.5.4 CNC歯車形削盤の基本機能 80
4.5.5 創成歯切りの制御方法 83
4.5.6 創成歯切りのシミュレーション 85
4.5.7 CNC歯車形削盤の仕様 85
(1) 概略仕様 85
(2) 制御軸仕様 86
(3) カッタストローク数の変換 88
(4) 切込み送り 90
(5) 毎分送り速度指令 90
4.5.8 歯切りの作業設計 90
4.5.9 CNC歯車形削盤による歯切りの特長 92
4.6 ワイヤカット放電による創成歯形の歯切り理論 93
4.6.1 歯形創成の方法 93
4.6.2 工具(ワイヤッカット)経路の算出方法 93
(1) 直線ラック形工具の歯形 93
(2) 工具経路算出のアルゴリズム 93
4.6.3 処理例 96
4.6.4 ワイヤカット放電加工機による歯切りの特長 97
4.7 結 言 98
第5章 CNCによる歯車研削加工理論 101
5.1 緒 言 102
5.2 歯形の創成研削の方法 102
5.2.1 創成研削の原理 102
5.2.2 研削砥石の断面形状 103
5.3 本原理のCNC平面研削盤への適用 104
5.3.1 制御軸の構成 104
5.3.2 創成研削の制御方法 106
5.3.3 創成研削の加工サイクル 108
5.3.4 研削可能な歯車の仕様の限界 110
5.4 加工実験と評価 111
5.4.1 CNC平面研削盤の仕様 111
5.4.2 歯車の諸元と研削条件 111
5.4.3 歯車測定 111
5.4.4 測定結果と考察 112
5.5 結 言 115
第6章 歯車精度評価方法の開発 117
6.1 緒 言 118
6.2 寸法精度管理の手法 120
6.2.1 またぎ歯厚法 120
(1) 測定方法 120
(2) ベクトル式 122
(3) またぎ歯厚の算出例 124
6.2.2 オーバーピン法 125
(1) 測定方法 125
(2) ベクトル式 125
(3) オーバーピン法の算出例 128
6.3 回転角伝達量測定システムの開発 129
6.3.1 測定システムの概要 129
(1) ハードウェア構成 129
(2) 本システムの動作の概要 129
(3) 測定の概略仕様 130
6.3.2 回転角伝達量誤差算出の方法 130
6.3.3 測定例 133
(1) 測定条件 133
(2) 測定結果 136
(3) 検討 136
6.4 結 言 139
第7章 非円形歯車の応用事例 141
応用例1.回転式成形カッティング機構 142
応用例2.回転形部品搬送機構 145
応用例3.インデックスユニットのドウエル時間の拡大 147
応用例4.クランクスライダ機構への応用 150
応用例5.流量制御用補正機構 156
第8章 結 論 161
■本書を構成した関連論文 166
内容説明
本書は、著者の10年余にわたっての非円形歯車の設計と製作に関する研究開発と応用、さらに産業界への導入活動の成果に基づいた非円形歯車の参考書である。
目次
第1章 緒論
第2章 ピッチ曲線の設計理論
第3章 歯形輪郭の創成理論
第4章 CNCによる歯切り加工理論
第5章 CNCによる歯車研削加工理論
第6章 歯車精度評価方法の開発
第7章 非円形歯車の応用事例
第8章 結論
著者等紹介
香取英男[カトリヒデオ]
工学博士。1943年9月8日神奈川県横浜市に生まれる。1994年3月明治大学大学院理工学研究科機械工学専攻博士課程修了。主な経歴は、1968年~1989年財団法人機械振興協会技術研究所。1977年~1979年東京都立大学工学部講師。1983年~1985年東京工業大学研究員。1989年5月~現在、テクファ・ジャパン(株)代表取締役社長。1990年5月~現在、埼玉県委嘱技術アドバイザ(CAD/CAM部門)。1991年~1992年法務省東京地方裁判所鑑定人(CAD/CAMシステム)。1994年9月~現在、青山学院大学理工学部講師。1995年4月~現在、明治大学理工学部講師。日本カム工業会会長、日本設計工学会評議員など
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