出版社内容情報
刊行によせて
最近,欧州を中心とした“CEマーク制度”の導入やわが国におけるPL法の施行などを契機として「機械類の安全性」に係る国際標準化が活性化してまいりました.
わが国においては,労働安全衛生法の構造規格や個別製品を対象とした安全規格はあるものの国際標準化機構(ISO)と国際電気標準会議(IEC)が共同して目指している安全規格体系に即応できる体制の整備は未だ十分であるとはいえないのが現状であります.
今や「標準化」は,国際戦略,企業の経営戦略の1つと考えられ,WTO/TBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)によるJISの国際整合化が進展する中で,わが国でも「機械類の安全性」や「システム機能の安全性」に関する国際規格への取り組みが,早急に対応すべき重要課題としてクローズアップされてまいりました.
(社)日本機械工業連合会では,「機械類の安全性」が広く機械工業界を横断するテーマであることから平成4年度より,ISO/TC199(機械類の安全性)を,平成10年度よりは,IEC/TC44(機械類の安全性―電気的側面)の両国内審議委員会を設置し,欧米各国と共同して,これまでに審議中のものを含めて,41に及ぶ国際安全規格の作成に取り組んでまいりました.
この度の刊行は,IEC/TC65(システム系機能の安全性)の国内審議団体である(社)日本電気計測器工業会と共同して「機械類の安全性」から見た「機械の電気装置(低電圧系)」とシステム系の安全性から見た「電気・電子・プログラマブル電子系機能の安全性」についてそれぞれの規格の「解説書」ならびに「事例・データ集」としてまとめたものであります.
機械工業界の方々をはじめ,プラント装置や安全関連機器の開発・設計,製造などに関係の深い皆様方に,広くご高覧いただき,機械類は基よりプラント等施設システムの安全性確保のための一助として頂きたいと期待しております.
本著を刊行するに当たり,監修,執筆にご尽力頂きました横浜国立大学教授の関口 隆氏,東京商船大学教授の佐藤吉信氏両氏をはじめ,執筆にご協力頂いた方々に,この場をかりて厚く御礼申し上げます.
2001年1月
(社)日本機械工業連合会 会長 相川賢太郎
はじめに
安全は現在の企業(製造業)にとって戦略的重要概念の1つである.安全に関する技術は,従来,機能・性能・効率追求の技術を支える脇役的存在であったが1980年代以降「環境」と同様に非常に重要なキーワードになってきた.
IEC(International Electrotechnical Commission:国際電気標準会議)のTC44(Technical Committee 44:機械類の安全性―電気的側面)は1959年に工業用機械の電気装置に関する国際規格作成を目的として設立されたが,1980年代に入ると安全に対する要求が増大してきたのを考慮して,1992年に安全を前面に出した現在の表題に変更した.その後の活動はEU内の機械安全(Machinery Safety)に関する諸活動と連携・協調をとりながら進められている.したがって,IEC/TC44の規定はEUの機械指令(Machinery Directives)に反映されるようになっている.本書では第2部IEC/TC44の主要規格と関連する安全技術について解説する.
IEC/TC65(工業プロセスの計測制御)は1968年に設立され,4つのサブコミッティ(Sub―Committee)を有して多面的な活動を展開している.そのうちの1つSCA(サブコミッティA:System Aspects―システム一般)において機能安全(Functional Safety)の規格化を審議するWG(Working Group)が1983年に開設されて活動をはじめている.このWGはイギリスの主導で活動が進められ,2000年までに機能安全の基本的規格IEC61508の制定を行った.機能安全はわれわれには新しい概念であるが,アメリカやヨーロッパでは既に対応する標準化が一部進められていた.特にヨーロッパでは,IEC61508を基本規格(basis for sector standards)として位置付けて機械指令に盛り込む検討を進めている.したがって,わが国においてもこの規格の理解を早急に深めることが望まれる.本書の第3部ではIEC61508の主要概念と関連技術について解説し,さらにプラントの安全に適用される規格IEC61511についても述べる.機械システムへ適用される規格は現在IEC/TC44で審議が進められている.
安全に関する技術は,人間と機械とを統合したシステム科学・システム工業を援用する必要がある.特に,操作者の特性等を考慮して個人の多様性を配慮したシステムズアプローチが重要である.しかし「個人」は多様な文化的,宗教・哲学的背景を背負っていて複雑であるため,そのような科学的アプローチは未確立である.現状では先行するヨーロッパの安全規格・安全法規に対する適確な理解を深めて,国際規格のわが国への適用に誤りなきように努力するのが最善の方策である.そのための一助として,第1部ではアメリカおよびヨーロッパの安全法規・規格化の背景動向を解読する.
本書の第1部から第3部を通読して,読者が「機械安全」と「機能安全」を中心とした安全についての国際規格化についての理解を深めて,わが国の企業を世界市場の中でたくましく発展させるための礎を築くための参考にしてくださることを願って止まない.
2001年1月
関口 隆刊行によせて
はじめに
第1部 基本編
第1章 国際安全法規の動向〈機器・プラントを中心に〉 2
1. はじめに 2
2. セベソ指令 2
3. OSHAの新規則 2
第2章 EUの市場統合の要素 4
1. 旧アプローチから新アプローチへ 4
2. 新アプローチの3要素 5
第3章 国際安全規格の包括化 7
1. 機械指令(Machinery Directives) 7
2. EN 292(機械の安全性),EN 954(安全関連系) 9
第4章 機能安全に関する国際規格(IEC 61508, IEC 61511) 11
第2部 機械安全(電気装置)編
第1章 機械類の安全性規格 18
1. 国際安全規格―ISO 12100―タイプA規格の概要 18
1.1 機械類設計の際,考慮すべき危険源 20
1.2 リスク低減のための戦略 20
2. 日本工業規格(国際安全規格)リスクアセスメント
―JIS B 9702:2000/ISO14121:1999の概要について 24
2.1 機械類の制限の決定 25
2.2 危険源の同定(identify) 26
2.3 リスク見積り 26
2.4 リスクの評価 30
2.5 文書化 32
第2章 セーフティ・コンポーネント 40
1. EC機械指令とセーフティ・コンポーネント 41
2. セーフティ・コンポの定義 41
3. セーフティ・コンポの種類 41
4. 欧州の安全思想から生まれた機構 42
5. 一般電気部品との主な相違点 42
5.1 セーフティ・スイッチ 42
5.2 セーフティ・リレーユニット 43
5.3 セーフティ・エリアセンサ(Safety Area Sensor) 45
6. 機械等で主に使用されるセーフティ・コンポ 46
6.1 有接点のスイッチとリレーの種類 46
6.2 特殊な電子回路の装置と種類 53
7. 安全カテゴリとセーフティ・コンポ 63
8. セーフティ・コンポと適用規格 63
9. 機械の電気装置JIS B 9960―1:1999でセーフティ・コンポの要求される項目
(IEC60204―1:1997) 64
10. JIS C 0508とセーフティ・コンポ(IEC 61508) 64
11. 労働安全とセーフティ・コンポ 64
第3章 機械の電気装置 66
1. 適用範囲 67
2. 一般要求事項 69
2.1 一般事項 69
2.2 電源 71
2.3 物理的環境および運転条件 73
3. 入力電源導体接続,電源断路機器 76
3.1 入力電源導体接続 76
3.2 電源断路機器 77
4. 感電保護 79
4.1 直接接触に対する保護 79
4.2 間接接触による保護 81
4.3 PELV(protectiv extra―low voltage)の使用による保護 83
5. 装置の保護 85
5.1 電気装置,電気機器および電気回路の過電流保護 85
5.2 保護機器の設置場所 86
5.3 保護機器の選定 86
5.4 電源の相順 86
6. 等電位ボンディング回路 89
6.1 保護ボンディング回路 89
6.2 保護ボンディング回路の導通性 91
6.3 保護ボンディング回路の開閉 92
7. 制御回路および制御機能 93
7.1 制御回路電源 93
7.2 制御回路の接続 94
7.3 制御機能 95
7.4 非常停止機器 97
7.5 ケーブルレス制御の場合の非常時の停止 98
7.6 非常スイッチングオフ 98
7.7 故障に対する制御機能 99
8. 機械に取り付けられる制御機器 100
8.1 位置センサ 101
8.2 押しボタン 101
8.3 表示灯 103
9. 制御装置の配置,取付けおよびエンクロージャ 104
9.1 配置,取付け 104
9.2 エンクロージャ 105
9.3 保護等級 105
10. 電線およびケーブル 107
10.1 正常使用時の電流容量 107
10.2 可とうケーブル 107
11. 配線 107
11.1 電線およびケーブルの配線 107
11.2 エンクロージャ内の配線 111
11.3 エンクロージャ外の配線 111
12. 機械の局所照明電源 112
13. マーキング,警告標識,略号 113
13.1 警告標識,略号 113
13.2 制御装置のマーキング 113
13.3 略号 114
14. 技術文書 114
14.1 提供情報 114
14.2 技術文書の作成 114
15. 試験および検証 126
15.1 試験・検証項目 126
第3部 機能安全編
第1章 信頼性理論の基礎 130
1. 信頼性と安全性 130
1.1 はじめに 130
1.2 安全装置の役割 131
2. 劣化と寿命 131
2.1 故障の統計的性質 131
2.2 寿命分布 132
2.3 故障率 134
3. システムの信頼性 136
3.1 直列システム 136
3.2 並列システム 137
4. 時間で評価した信頼性 138
4.1 非修理系と修理系 138
4.2 各種の指標 138
4.3 各種システムのMTTF 142
5. 冗長系の信頼性 144
5.1 マルコフモデル 144
5.2 各種の冗長系 147
5.3 おわりに 149
第2章 IEC 61508(JIS C 0508)の概要 151
1. 技術的背景 152
1.1 安全認証の教訓 152
1.2 ハイテク技術 156
2. 整合性 157
2.1 ISO/IEC Guide 51 158
2.2 共通点 158
2.3 相違点 158
3. 基本的概念 160
3.1 用語の定義 160
3.2 故障の予測可能性 162
3.3 システムの複雑度 163
3.4 固有安全と機能安全 165
4. SILとリスク軽減との関係 166
4.1 システムモデル 166
4.2 アルゴリズム 167
4.3 SILの割り振り 168
4.4 作動要求モード 169
4.5 SILモデルの改善 170
5. 全安全ライフサイクル 172
6. 認証の動向 174
7. まとめ 175
第3章 プラントのリスクアセスメントの手法と実際 177
1. プロセスプラントのリスクアセスメント 177
1.1 リスクと安全 177
1.2 リスクアセスメント 180
1.3 潜在危険の同定 183
1.4 リスクの推定 185
2. 原子力発電所の確率論的安全評価 195
2.1 はじめに 195
2.2 安全設備の構成 196
2.3 確率論的安全評価の手法 199
2.4 PSA評価例 206
2.5 PSA情報の利用 210
第4章 安全計装システムの性能と設計 220
1. 安全計装システムの概説 220
2. 安全計装システムの変遷 221
3. Safety―PLCの普及状況 223
4. 安全計装システムのアプリケイション 223
5. IEC 61508と安全計装システム 224
6. 安全計装システムの性能 226
6.1 評価尺度PFD 226
6.2 安全計装システムの自己診断 227
6.3 信頼性 229
6.4 リレーによる安全計装システム 229
7. 認定されたロジックソルバーの実例 230
7.1 磁気コアベースのソリッドステート回路 230
7.2 Safety―PLC 231
8. 安全計装システムの設計 233
8.1 階層的防護 233
8.2 安全計装システムに対する要求事項 234
8.3 安全計装システムのエンジニアリング 234
8.4 フィールド機器 237
9. 応用事例 242
第5章 関連事項 244
1. ISA S 84.01を適用した安全計装システムの設計 244
1.1 化学プロセスプラントにおける潜在危険性 244
1.2 安全計装システムの発展 244
1.3 化学プロセスプラントにおける安全の確保 245
1.4 ISA S 84.01による安全計装システムの設計 248
1.5 安全計装システム設計例 251
1.6 安全計装システム詳細設計の要点 254
1.7 おわりに 256
2. 機能安全とライフサイクルコスト(LCC)を考慮した設計 257
2.1 はじめに 257
2.2 LCCの概念および定義 257
2.3 LCC解析の適用分野と利用目的 258
2.4 LCC解析の手順 258
2.5 LCC解析の基本6プロセス 259
2.6 安全性とLCC指標を考慮した設備設計法の一例 262
2.7 安全性とLCCを考慮した設備設計の例(緊急遮断システムの冗長化設計への適用) 263
2.8 おわりに 266
索 引 267
内容説明
本書は、(社)日本機械工業連合会と(社)日本電気計測器工業会が共同で「機械類の安全性」から見た「機械の電気装置(低電圧系)」とシステム系の安全性から見た「電気・電子・プログラマブル電子系機能の安全性」についてそれぞれの規格の「解説書」ならびに「事例・データ集」としてまとめたものです。
目次
第1部 基本編(国際安全法規の動向(機器・プラントを中心に)
EUの市場統合の要素
国際安全規格の包括化 ほか)
第2部 機械安全(電気装置)編(機械類の安全性規格;セーフティ・コンポーネント;機械の電気装置)
第3部 機能安全編(信頼性理論の基礎;IEC61508(JIS C 0508)の概要
プラントのリスクアセスメントの手法と実際 ほか)
著者等紹介
関口隆[セキグチタカシ]
1935年東京都生まれ、横浜国立大学電気工学科卒業、工学博士。IEC/TC44(機械類の安全性-電気的側面)およびIEC/TC65(工業プロセス計測・制御)の日本委員会委員長、IEEE、電気学会、計測自動制御学会、電子通信学会、システム制御情報学会、日本ファジイ学会、日本医療情報学会会員
佐藤吉信[サトウヨシノブ]
1948年埼玉県生まれ、早稲田大学大学院理工学研究科機械工学専攻修了、工博(京都大学)。リスク評価、システム安全、確率論的安全評価の教育研究に従事、電子情報通信学会信頼性研究専門委員会委員長、Chair of the Safety Technical Operation of IEEE Reliability Society
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