内容説明
3・11以降、おびただしい数の「震災後文学」が書かれた。故郷と肉親・友人・知人の喪失、原発問題、放射線による生物の変容、被災地と非・被災地の温度差、東北と東京の温度差、政権への批判、真偽不明の情報と感情の洪水としてのSNS、記憶や時間感覚の混乱、死者との対話、「書けない自分」「無力な自分」へのフォーカス、復旧・復興、言論統制や自主規制、ディストピア化した日本、テロやデモや群衆蜂起、戦争文学との接続…さまざまな作品、さまざまなテーマがうまれた。3・11以降にうみだされた「震災後文学」を扱う渾身の評論集。
目次
第1章 震災後文学の超臨界(同時代としての震災後;希望―重松清と『シン・ゴジラ』;揺れる世界と存在―震災後としての中村文則文学)
第2章 科学と文学の(dis)コミュニケーション(情報の津波をサーフィンする―3・11以後のサイエンスなフィクション;震災後文学としての『PSYCHO‐PASSサイコパス』シリーズ―科学技術コミュニケーションにおけるリスク・個人・希望をめぐって;対震災実用文学論―東日本大震災において文学はどう使われたか)
第3章 イメージの核分裂(島田荘司と社会派エンターテインメント;映像メディアと「ポスト震災的」世界―キャメラアイの「多視点的転回」を中心に)
第4章 震災後を生きる君たちへmore than human(“生”よりも悪い運命;高橋源一郎論―銀河系文学の彼方に)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
田中峰和
3
既に6年が経過したが、3.11は今を生きる日本人にとって、過去の振り返りではなく、現在進行形の問題である。純文学に限らず、映画の世界でも「シン・ゴジラ」「君の名は。」など大震災を想起させる作品が世を賑わせてきた。地震大国に住む限り他人事ではない震災。昨年も熊本地震は大きな被害が出た。震災に限らず自然災害は身近なもの。日本に住む限りいつ何時大地震に遭遇するかわからない日々を生きる我々にとって、過去ではなく今日明日のテーマだ。さらに厭世的にさせる原発問題。福島の可能性は各地に存在し、再稼働に怯える日々が続く。2017/05/20
たろーたん
2
東日本大震災後に顕著に表れる文学テーマは大きく分類すると「死と弔い」「原発」「社会運動」「記憶/混濁」「語ることの困難・躊躇」「戦争の予感」「ディストピア(ナショナリズム、言論統制、生殖管理)」「都市と地方」などが挙げられる。大きく括ると「理不尽な暴力のサバイブ」と「ディストピア的な雰囲気」だと思う。東日本大震災の惨状を、一方は「語ることができない暴力」として表し、もう一方は「不穏な全体主義の空気」として練り上げていった。(続)2024/09/28
ゆうき
0
東日本大震災後の文学とは「公共空間」から「私の空間」が拡張し、「私の物語」が「世界の物語」と接続した文化空間であり「私」が語ることで「世界」を語ることになる。2020/03/04