内容説明
「日本的ポストヒューマン」を現代日本SFの特質ととらえ、活況を呈する日本SFの中核を担う作家(伊藤計劃、円城塔、瀬名秀明、飛浩隆、長谷敏司、宮内悠介)の作品を中心に論考する。
目次
第1部 日本的ポストヒューマンの諸相(「伊藤計劃以後」と「継承」の問題―宮内悠介『ヨハネスブルグの天使たち』を中心に;カオスの縁を漂う言語SF―ポストヒューマン/ヒューマニティーズを記述する;人間社会から亜人へと捧ぐ言葉は何か―瀬名秀明「希望」論;肉体と機械の言葉―円城塔と石原慎太郎、二人の文学の交点;新世紀ゾンビ論、あるいはHalf‐Life(半減期))
第2部 浸透と拡散、その後(アンフェアな世界―『ナウシカ』の系譜について;虚構内キャラクターの死と存在―複岐する無数の可能世界でいかに死を与えるか;SF的想像力と映画の未来―SF・映画・テクノロジー;科学幻視―新世紀の本格SFミステリ論;ネット小説論―あたらしいファンタジーとしての、あたらしいメディアとしての)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
磁石
6
伊藤計劃さんの著作を読んだあと、そこに描かれた未来以上のビジョンは、ないんじゃないかと思ってしまったが、ここに載せられている研究者や批評家が、その道筋と展望を見せてくれた。日本的ポストヒューマニズム。身体性の復権によって、一元論から複雑な二元論へと変化すること。意識や言語がどのように形成されていったのか、その過程から導き出されるものもある。ネット小説の今後とは。今が旬の話題がてんこ盛りで、読んでいてワクワクさせられた。2013/08/29
バチスカーフ
4
いささか基礎体力の必要が過ぎるきらいはあるが、少なくとも現役の「SF者」を自認する方には一読をお薦め。「伊藤計劃」「ポストヒューマニティーズ」「「浸透と拡散」等をキーワードにした10篇の評論はどれも説得力がある。その中でも海老原豊氏の「カオスの縁を漂う言語SF」をとくに挙げたい。「個別・具体的な社会における実践である表層構造」と「身体的根拠を持つ深層構造」の2層に分けて「言語」を考えるモデルは、次代を読み解く戦略として有効に感じた。他に、山川賢一氏「アンフェアな世界」や飯田一史氏「ネット小説論」なども。2014/05/29
Kaede
3
現代日本SFで数多く扱われている「ポストヒューマン」に対する論評。最近読んでいるSFのなかにポストヒューマン的な要素の強いものが多いのと、かつ好きなので読みました。思っていたより切り口の幅が広く、特に「カオスの縁を漂う言語SF」と最後のキーワード集がよかった。2016/04/16
さぼ
3
② 序論で示された日本的ポスト・ヒューマンという切り口は比較文化的な側面もあり広くを射程に入れられる面白いものだと思ったんだけれど、いかんせん各論に入ると個々の作家作品サブジャンルと、広く構えた序論に対して限定的なテーマが多く、ただ序論からは単語レベルで意味を引き継ぐ程度なので一冊を通した文脈が弱い。(結局日本的ポストヒューマンのリアリティって? 伊藤計劃以後のSFって?) SFに疎いためかブックガイドにもなりお得。渡邉大輔のSF映画、飯田一史のネット小説論は興味深い。巻末のキーワード集が地味にうれしい。2014/02/06
たろーたん
1
英米の「ポストヒューマン」の特徴が、1「特異点を超えた人間が死を喪失するなど多幸感に満ちており、2人間を情報ととらえ、魂=情報として描く。3、またバックボーンにはキリスト教の千年王国主義や復活思想が見える。 それに対して、日本の「ポストヒューマン」の特徴は、1SNSやコミュニケーション、「空気」の中に溶け込んで融解、あるいは接続していくような主体を描く傾向があり、2キャラクター文化が強いため、自身とキャラクターの関係性を誘拐させがちな傾向がある。 これは覚えておこうかな。2018/02/05