出版社内容情報
本書は,大学学部において初めて量子力学を学ぼうとしている人を想定して書かれている。しかしながら,すでに量子力学をある程度マスターした人でも,Mathematicaを利用することで,別の側面からの理解を深めることができるのではないかと思っている。
内容的には,量子力学と固体物理学の基礎を扱っているので,あえて「量子力学」とはせず「量子物理学」とした。しかし,量子物理学のすべてを網羅しているわけではないことをお断りしておく。
物理学の理解においては数学的知識がかなり必要になる。そのために物理学を難しいと感じたり,あるいは途中で挫折してしまうことも少なからずあるに違いない。物理学における数学は,一種のコミュニケーションのための言語であり,他の人に意味を伝えるための全世界共通語でもある。
Mathematicaは,この難解な数学言語を理解するための支援アプリケーションであると考えられる。物理学を習得するためには,数学の知識を身につけることは必須であり,その理解を確認するための補助手段として活用するとよい。実際,手計算で行うと数時間もかかるような計算も一瞬にして答えを出してくれる場合もある。しかし注意したいのは,Mathematicaに頼りすぎて,手計算では何もできなくなってしまうのも,物理学を勉強する上では問題である。やはり一度は手計算で行ってみて,正しいかどうかのチェックにMathematicaを利用すべきだと思う。そこで本書では,解析的に解ける問題には,できるだけその導出過程も詳しく説明したつもりである。
さて,もう一つMathematicaの優れている点は,豊富なグラフィックスの機能を有していることである。これらを駆使することによって,数式の裏に隠されていた物理的な意味がさらに理解しやすくなる場合が多々あるし,なによりも抽象的な数式から,より具体的な物理像への橋渡しとしての役割は大きい。そのようなことから,本書でMathematicaを用いていない箇所でも,読者自身でグラフを描画させてみるとよいであろう。
なお,本書ではMathematicaを利用するにあたり,特別なカスタマイズを行わずに,できるだけ基本機能のみを用いた。初めてMathematicaを使う人でも,本書の記述どおりに入力していけば,基本的なMathematicaの使い方がマスターできるはずである。
最後に図書館情報大学教授の和光信也先生には原稿を何度も読んでいただき,数多くのご助言をいただいた。心から感謝の意を表したい。また,Mathematicaの使い方など,学習院大学大学院の時井真紀氏にも大変お世話になった。また,東京電機大学出版局の植村八潮氏と松崎真理氏には本書を出版する機会を与えていただき,有益なご助言をいただいた。これらの方々にも心からお礼申し上げたい。
2000年1月
松本 紳
序章 Mathematicaの基本操作
0.1 起動方法
0.2 Mathematicaのコマンド
0.3 パレット
第1章 電子
1.1 歴史,研究の発展
1.2 物質の状態
1.3 原子構造
ノートブック[m1-1.nb]:動径波動関数の形
1.4 量子条件
1. ボーアの量子条件
2. ボーアの振動数条件
1.5 量子仮説と物質波
ノートブック[m1-2.nb]:レーリー-ジーンズ,ウィーン,プランクの式
ノートブック[m1-3.nb]:関数の級数展開
第2章 量子力学の基礎
2.1 波動方程式
ノートブック[m2-1.nb]:指数関数の実部,虚部と三角関数
2.2 量子力学の基礎原理(その1)
ノートブック[m2-2.nb]:波動関数の規格化
ノートブック[m2-3.nb]:シュレディンガー方程式の数値解
2.3 不確定性原理
ノートブック[m2-4.nb]:運動量と位置座標の交換関係
2.4 位置の固有関数(δ関数)
ノートブック[m2-5.nb]:δ関数の形
2.5 量子力学の基礎原理(その2)
2.6 行列表現と固有値問題
ノートブック[m2-6.nb]:固有値問題
2.7 ハイゼンベルグ抽像と行列力学
2.8 ハイゼンベルグの運動方程式
第3章 自由粒子と束縛粒子
3.1 自由電子モデル
ノートブック[m3-1.nb]:自由電子の波動関数
自由電子モデルでの状態密度
ノートブック[m3-2.nb]:自由電子モデルでの状態密度と状態数
3.2 井戸型ポテンシャル
ノートブック[m3-3.nb]:k tan ka = k′をグラフで解く
3.3 一次元調和振動子
3.4 三次元調和振動子
ノートブック[m3-4.nb]:調和振動子の波動関数
3.5 中心力場
ノートブック[m3-5.nb]:球面調和関数の形
ノートブック[m3-6.nb]:立方調和関数の形(その1)
ノートブック[m3-7.nb]:立方調和関数の形(その2)
ノートブック[m3-8.nb]:水素の動径波動関数
第4章 角運動量と電子スピン
4.1 角運動量
4.2 角運動量演算子の行列表現
ノートブック[m4-1.nb]:角運動量演算子
4.3 ゼーマン効果
4.4 スピン関数
ノートブック[m4-2.nb]:スピン演算子
4.5 二電子問題
4.6 スピン三重項と一重項
4.7 クーロン積分と交換積分
第5章 相対論的量子力学
5.1 ガリレイ変換
5.2 特殊相対性理論
ノートブック[m5-1.nb]:光円錐とローレンツ変換
5.3 四元ベクトル
5.4 固有時間
5.5 アインシュタインの関係式
ノートブック[m5-2.nb]:アインシュタインの関係式と古典力学の対応
5.6 クライン-ゴルドン方程式
5.7 連続方程式
5.8 ディラック方程式
ノートブック[m5-3.nb]:ディラック方程式の係数
5.9 ディラック方程式に対する確率密度
5.10 スピン軌道相互作用
ノートブック[m5-4.nb]:(σ・A)(σ・B) = A・B+iσ・A×Bの証明
第6章 量子統計
6.1 マクスウェル-ボルツマン統計
ノートブック[m6-1.nb]:マクスウェル分布の形
6.2 パウリの排他原理
6.3 フェルミ-ディラック統計
ノートブック[m6-2.nb]:フェルミ-ディラックの分布関数の形
6.4 ボーズ-アインシュタイン統計
第7章 結晶
7.1 空間格子
1. 並進対称性
2. 点群対称性
3. ブラベー格子
4. 立方対称性
7.2 代表的な結晶構造
1. 単純立方構造
2. 体心立方構造
3. 面心立方構造
4. 六方最密構造
5. ダイヤモンド構造
6. 塩化ナトリウム構造
7. 塩化セシウム構造
8. 閃亜鉛鉱構造
ノートブック[m7-1.nb]:結晶構造の表示
7.3 ブロッホの定理(その1)
7.4 逆格子
ノートブック[m7-2.nb]:逆格子ベクトルの計算
第8章 結晶中の電子
8.1 ブロッホの定理(その2)
8.2 クローニッヒ-ペニーの問題
ノートブック[m8-1.nb]:クローニッヒ-ペニーの解(その1)
ノートブック[m8-2.nb]:クローニッヒ-ペニーの解(その2)
8.3 バンド構造
8.4 外場による電子の運動
ノートブック[m8-3.nb]:波束の運動
1. 磁場による電子の運動
2. 固体中の電子の運動
付録
A 物理定数表
B 原子単位系
C ベクトルの微分
D 解析力学の公式
E 主要物質の室温付近での結晶構造
CD-ROMの使い方
参 考 文 献
索 引
事項・人名索引(和英)
事項・人名索引(英和)
コマンド索引
目次
序章 Mathematicaの基本操作
第1章 電子
第2章 量子力学の基礎
第3章 自由粒子と束縛粒子
第4章 角運動量と電子スピン
第5章 相対論的量子力学
第6章 量子統計
第7章 結晶
第8章 結晶中の電子