出版社内容情報
皆さんは、オペアンプでフリップフロップを作ろう、などと考えたことがありますか?。この本は、ディジタルとアナログでそれぞれ"同じ機能の電子回路"を作り、それらの回路の働きを実験を通して比較観察し、両者の共通点・相違点を正確に把握することで、電子回路の働きの本質をより深く理解することを目的に書きました。
従って、読者の皆さんはある程度ディジタル回路・アナログ回路の初歩的な知識をお持ちであるものとして話を進めます。ただし、専門用語などについてはできるだけ解説を加え、平易な説明に心掛けたつもりです。
ご存じのように、現在市販されているICは、その内部回路のほとんどすべてをトランジスタまたはFET(電界効果トランジスタ)で構成しています。これは、抵抗、コイル、コンデンサなど電気回路の基本3素子をできるだけ使わず、あらゆる回路機能をトランジスタという能動素子だけで構成できるように工夫した回路技術の成果です。
もちろん、IC内部回路の一部には抵抗やコンデンサも組み込まれていますが、これらについてもシリコン結晶板の上に同時に作り上げる工夫がなされています。このような努力の積み重ねが、小型個別部品を集積したいわゆるハイブリッドICの欠点であった生産性を改善し、大量生産に適したモノリシックICを生み出し、今日のIC回路全盛時代を迎えたのです。
それでは、同じ"トランジスタ"という素材を使いながら、ディジタルICとアナログICはいったいどこが違うのでしょうか?。もちろん、その勉強が本書の目的でもあるわけですが、ここでは、次の2点を念頭に置きながら読み進んで頂ければ幸いです。
① ディジタル回路とアナログ回路は"取り扱う電気信号の性質が異なる"という基本的な相違点があるため、ICの内部回路がそれぞれの目的に合わせて最適化されている、という点が違います。
② しかし、上記のような回路構成上の目的の相違はあるにせよ、基本的にディジタル用トランジスタ、アナログ用トランジスタなどという区別があるわけではなく、トランジスタまたはFETを使った増幅回路があらゆるIC内部回路の基本となっています。
このことから、ある程度の制限はありますが、実際にディジタルICでアナログ回路を作ったり、反対にアナログICでディジタル回路を構成したりすることが可能です。これは、ハードウェア的な意味におけるディジタル・アナログの互換性といえるでしょう。
他方"電子回路の機能"という立場から見ると、たとえば"タイマー"という機能を、ディジタル回路でもアナログ回路でも実現することができます。これはソフトウェア的な意味における互換性とでも云うことができるのではないでしょうか?。
ディジタルICとアナログICを使って、このハードウェア的な互換性、ソフトウェア的な意味での互換性をそれぞれ実験で確かめながら、IC回路の勉強を楽しく進めよう・・、この筆者の意図がどこまで読者の皆さんに理解していただけるか、それはこの本をお読みいただいた結果次第と云うことになります。筆者としては、例えば5V単一電源で大部分の実験ができるよう工夫するなど、いろいろ配慮して内容をまとめたつもりです。どうぞお読みになった結果を、忌憚のないご意見として寄せくださるようお願いいたします。
最後になりましたが、この本の執筆に当たりいろいろとお世話になった、20年来の知己でもある、東京電機大学出版局・植村八潮氏にこの場を借りて厚くお礼を申し上げます。
平成10年12月
編者しるす
第1章 ゲートとオペアンプ
1.1 ゲートとオペアンプ
1.1.1 ディジタルゲートとオペアンプの基本的な働き
1.1.2 実験用ICの選定
1.2 オペアンプでゲートを作る
1.2.1 インバータ
1.2.2 2入力NANDゲート
1.3 ゲートとオペアンプどこが違う?
1.4 ゲートで増幅器を作る
1.4.1 ゲートで作った増幅器
1.4.2 水晶発振回路の実験
1.4.3 BタイプゲートとUBタイプゲート
1.5 トランジスタで作るゲート
1.5.1 インバータ
1.5.2 2入力NANDゲート
1.6 ゲートICの内部回路とオペアンプ
1.6.1 2入力NANDゲート
1.6.2 オペアンプ
1.7 もう一度,ゲートとオペアンプ
1.7.1 ディジタルIC
1.7.2 オペアンプ
第2章 コンパレータとシュミット回路
2.1 コンパレータの働き
2.1.1 アナログコンパレータ
2.1.2 ディジタルコンパレータ
2.1.3 ウィンドウコンパレータ
2.2 シュミット回路とは
2.3 ゲートで作るシュミット回路
2.3.1 ゲートで作るシュミット回路の働き
2.3.2 ゲートで作るシュミット回路の実験
2.4 オペアンプで作るシュミット回路
2.4.1 オペアンプで作るシュミット回路の働き
2.4.2 オペアンプ反転シュミット回路の実験
2.5 シュミット回路の応用
2.5.1 シュミット回路の効用
2.5.2 シュミット回路の応用その一:タイマー回路
2.5.3 シュミット回路の応用その二:方形波発振回路
第3章 方形波と三角波
3.1 マルチバイブレータ
3.1.1 リング発振回路
3.1.2 インバータとC・Rを組み合わせたマルチバイブレータ
3.1.3 マルチバイブレータの実験
3.2 三角波と方形波の同時発振
3.2.1 オペアンプ増幅回路の基本的な使い方
3.2.2 増幅器とマルチバイブレータの関係
3.2.3 アナログ増幅器で作るマルチバイブレータ
3.2.4 積分回路と三角波
第4章 VCOとワンショットマルチバイブレータ
4.1 VCOの実験
4.1.1 三角波/方形波発振器の周波数を変える方法
4.1.2 方形波のデューティ比を制御する実験(パルス幅変調VCO)
4.1.3 電圧制御発振回路(V/F変換VCO)
4.2 ゲートを使ったワンショットマルチバイブレータ
4.2.1 パルストリガ形ワンショットマルチバイブレータ
4.2.2 レベルトリガ形ワンショットマルチバイブレータ
4.2.3 パルストリガ形ワンショットマルチバイブレータの実験
4.3 オペアンプを使ったワンショットマルチバイブレータ
4.3.1 オペアンプの交流結合と直流結合の組み合わせによる方法
4.3.2 シュミット回路を応用したワンショットマルチバイブレータ
4.3.3 シュミット回路ワンショットマルチバイブレータの実験
4.4 ワンショットマルチバイブレータ専用IC
4.4.1 ワンショットマルチバイブレータ専用ICの例
4.4.2 ワンショットマルチバイブレータ応用のマルチバイブレータ
第5章 フリップフロップ
5.1 フリップフロップとICメモリ
5.1.1 フリップフロップの原型
5.1.2 ダイナミックメモリ(D-RAM)?の実験
5.1.3 フリップフロップの種類
5.2 R-S-FFとタッチスイッチの実験
5.2.1 R-S-FFの効用
5.2.2 ゲートとオペアンプでR-S-FFを作る
5.2.3 R-S-FFの動作タイプ
5.2.4 タッチスイッチの実験
5.3 ゲートとオペアンプでT-FFを作る
5.3.1 T-FFの働き
5.3.2 ゲートで作るT-FF
5.3.3 オペアンプで作るT-FF
5.4 ディジタルだけのフリップフロップ
5.4.1 ラッチ
5.4.2 D-FF
5.4.3 J-K-FF
第6章 カウンタと積分回路
6.1 ディジタルカウンタ
6.1.1 "数"のいろいろな表現方法
6.1.2 アップカウントとダウンカウント
6.1.3 同期カウントと非同期カウント
6.1.4 2進カウンタの実験
6.1.5 D-FFを使った2進2行カウンタ
6.2 2進4ビット(16進)カウンタの実験
6.2.1 74HC193の機能
6.2.2 74HC193の動作タイミングチャート
6.2.3 74HC193の総合動作実験
6.3 カウンタの多桁接続とN進カウンタ
6.3.1 カウンタの多桁接続
6.3.2 1/Nカウンタ
6.4 積分回路はアナログカウンタ
6.4.1 積分回路の基本的な働き
6.4.2 アップカウントとダウンカウントの積分回路
第7章 D/A変換とA/D変換
7.1 D/A変換の考え方
7.1.1 桁の重みとD/A変換
7.1.2 電流加算形D/A変換
7.2 はしご回路でD/A変換
7.2.1 はしご回路の原理と応用
7.2.2 はしご回路の実験
7.3 遂次比較形A/D変換
7.3.1 遂次比較形A/D変換の原理
7.3.2 遂次比較形A/D変換の実験
7.4 D/A変換を利用したA/D変換
7.4.1 D/A変換を利用したA/D変換の原理
7.4.2 カウントアップ形?A/D変換の実験
7.4.3 追従比較形A/D変換
7.4.4 追従比較形A/D変換の実験
7.5 アナログならではの二重積分A/D変換
7.5.1 二重積分A/D変換の原理
7.5.2 二重積分A/D変換回路の実験
7.5.3 ワンチップLSIによる二重積分A/D変換
7.6 VIF変換
7.6.1 V/FコンバータのAD
7.6.2 AD654の実験
第8章 フィルタ回路
8.1 アクチブフィルタ
8.1.1 フィルタとは
8.1.2 オペアンプを使ったアクチブフィルタ
8.1.3 アクチブフィルタの実験
8.1.4 状態変数形アクチブフィルタ
8.2 スイッチドキャパシタ・フィルタ
8.2.1 スイッチドキャパシタ
8.2.2 スイッチドキャパシタの実験
8.3 スイッチドキャパシタ・フィルタの実験
8.3.1 スイッチドキャパシタ・フィルタで作る正弦波発振回路
8.3.2 しゃ断周波数可変・8次最大平坦特性スイッチドキャパシタLPFの実験
索引
内容説明
本書は、ディジタルとアナログでそれぞれ“同じ機能の電子回路”を作り、それらの回路の働きを実験を通して比較観察し、両者の共通点・相違点を正確に把握することで、電子回路の働きの本質をより深く理解することを目的に書きました。
目次
第1章 ゲートとオペアンプ
第2章 コンパレータとシュミット回路
第3章 方形波と三角波
第4章 VCOとワンショットマルチバイブレータ
第5章 フリップフロップ
第6章 カウンタと積分回路
第7章 D/A変換とA/D変換
第8章 フィルタ回路