出版社内容情報
《内容》 最近急速に進歩した血疫学の研究,成果をうけ,大きく変貌した白血病・悪性リンパ腫・多発性骨髄腫の最新の診断,治療の実際を解説したもの.病因・発生機序,疫学などの基礎的事項は他に譲り,第一線の臨床医が診断の場で必要とされる事項を,それぞれの専門医が,具体的に述べた実践のための手引き書である.2版の序 白血病,悪性リンパ腫,多発性骨髄腫は代表的な造血器悪性腫瘍であり,これらの疾患の診断法や治療法を理解することは血液学を学ぶ臨床家にとってはもっとも重要なことである.事実,入院を要する血液疾患患者のほとんどすべてがこれらの悪性腫瘍に罹患していることからもその重要性が明らかであろう. しかしながら,血液疾患の研究は最近急速に進歩し,それに伴って診断,治療法も大きく変わってきている.なかでも造血器悪性腫瘍の診断,治療法は,われわれ専門家でさえもすべてを理解するのが困難なほど,急速に進歩しつつある. 例えば診断の分野では,形態,表面マーカー,染色体,臨床像を診断の根拠とするのみならず,最近急速に進歩した遺伝子異常をも加味した新しいWHO(World Health Organization)分類が提唱されている.その概要は1999年末にすでに発表され,詳細は2001年に単行本の形で発表されるとのことだが,このWHO分類は,白血病,骨髄異形成症候群,悪性リンパ腫,多発性骨髄腫のみならず,マスト細胞の疾患や組織球・樹状細胞の腫瘍など,すべての造血器悪性腫瘍を包括している.しかし従来の分類・診断基準と大きく異なる点があり,本分類を用いるにあたっては従来の分類との異同について注意する必要がある. 一方治療の面では,新しい抗癌剤の出現で治療成績が向上した疾患も多いが,造血幹細胞移植の分野での進歩が目だっている.最近では移植の方法が自家あるいは同種骨髄移植から末梢血幹細胞移植へと移りつつあり,さらに骨髄非破壊的前治療を用いたいわゆるmini-transplant(transplant-lite)あるいはnon-myeloablative transplantationと呼ばれる方法が注目されている.臍帯血移植の分野でも,全国規模で容易に臍帯血を得ることが可能になった.各種造血幹細胞移植の適応や手技,あるいはその問題点を学ぶことは,血液学の臨床を学ぶものにとって必須の事項である. 本書の初版は1997年11月に出版されたが,幸い好評を得て(と筆者は信じているが),今回は最近の進歩をふまえた改訂版を出すことになった.疾病の原因,発症機序,疫学などについては初版と同様に概ね省略し,第一線の臨床家がベッドサイドで患者を診療する際に必要な事項を中心に記述するように著者の方々には心がけていただいた.さらに,初版についての川崎医科大学血液内科八幡義人教授による丁寧かつ建設的な書評に則り,成人T細胞白血病の項を新たに設けるなど,いくつかの改訂を行った. 本書が現在の血液学の流れを汲み,実際の診療に役立つ手引書となることを切に望んでいる.またこの場をお借りして,ご多忙のところ快く執筆をお引き受けいただいた先生方に深謝すると共に,初版の欠点をご指摘いただきより充実した改訂版の出版にご助力いただいた八幡教授に厚く御礼申し上げる次第である. 2000年10月 押味和夫 《目次》 目 次序説…〈押味和夫〉 1 1.診断上のポイント… 1 2.治療上の新しい展開… 31.急性白血病… 5 1.急性白血病の分類…〈松尾辰樹 栗山一孝〉 5 A 急性白血病のFAB分類… 5 1.急性リンパ性白血病… 6 2.急性骨髄性白血病… 8 B FAB分類に含まれていない急性白血病…10 1.Mixed lineage leukemia…10 2.Early erythroblastic leukemia…10 3.低形成白血病…11 C その他の概念の急性白血病…11 1.Acute myeloid leukemia with trilineage myelodysplasia(AML/TLD)…11 2.二次性白血病(治療関連白血病)…11 D 造血器悪性腫瘍のWHO分類…11 1.急性リンパ性白血病…12 2.急性骨髄性白血病…12 2.急性白血病の病状・診断・鑑別診断…〈泉二登志子〉 15 A 急性白血病の症状…15 B 急性白血病の診断…15 1.白血病の診断に要する検査…15 2.白血病の病型診断に要する検査…16 C 特殊な白血病…21 D 白血病の鑑別診断…22 3.急性骨髄性白血病の化学療法・分化誘導療法--適応と実際--…〈小林 透〉 25 A AMLの化学療法…25 1.治療理念…25 2.AMLの化学療法に用いられる薬剤…25 3.本邦におけるAML臨床試験…26 4.欧米での代表的なAMLの化学療法…28 5.本邦と欧米のAML治療成績の比較…32 B ATRAによるAPLの分化誘導療法…35 1.APLの染色体異常とレチノイン酸による分化誘導機序…35 2.APLの染色体異常とATRAによる治療効果…36 3.PML遺伝子の切断部位と予後…36 4.APLに対するATRAの臨床試験と効果…36 5.ATRAの至適投与法と最近の臨床成績…37 6.ATRAの副作用…38 7.新しいAPLの治療…38 C サイトカイン療法…38 D 予後因子…39 E 今後のAML治療…40 F 実際のAMLを対象としたプロトコール…41 4.急性リンパ性白血病の化学療法・放射線療法--適応と実際--…〈谷本光音〉 49 A 成人急性リンパ性白血病の細胞生物学的特性…49 B 成人急性リンパ性白血病の化学療法…50 1.ALL-93プロトコール…50 2.ALL-97プロトコール…54 3.B-ALL97プロトコール…57 C 成人急性リンパ性白血病の治療法選択…57 5.急性白血病の造血幹細胞移植--適応と実際--…〈金丸昭久 芦田隆司〉 59 A 急性白血病の移植適応…59 1.一般的な適応条件…59 2.急性骨髄性白血病(AML)の移植適応…60 3.急性リンパ性白血病(ALL)の移植適応…61 B 移植の実際…62 1.造血幹細胞移植の種類…62 2.前処置…62 3.移植実施の手順…63 4.移植関連合併症…64 C 移植の治療成績…69 1.骨髄移植と化学療法との比較…69 2.移植成績…702.慢性白血病…74 1.慢性骨髄性白血病と類縁疾患の分類・症状・診断・鑑別診断…〈加藤 淳〉 74 A 古典的Ph陽性CML…74 B 慢性骨髄単球性白血球…76 C 非典型的慢性骨髄性白血病…77 D 慢性好中球性白血病…77 E 小児型慢性骨髄性白血病…78 F FABグループの見解…79 2.慢性リンパ性白血病と類縁疾患の分類・症状・診断・鑑別診断…〈安川正貴〉 81 A 慢性リンパ性白血病の分類…81 B B細胞性慢性リンパ性白血病と類縁疾患…82 1.B細胞性慢性リンパ性白血病…82 2.前リンパ球性白血病…85 3.有毛細胞白血病…86 4.有毛リンパ球を伴う脾リンパ腫…87 5.非ホジキンリンパ腫の白血化…88 6.リンパ形質性リンパ腫…89 7.形質細胞性白血病…89 C T細胞性前リンパ性白血病と顆粒リンパ球白血病…90 1.T細胞性前リンパ性白血病…90 2.顆粒リンパ球白血病…90 D 成人T細胞性白血病とセザリー症候群…92 1.成人T細胞性白血病…92 2.セザリー症候群…97 3.慢性骨髄性白血病の治療法(急性転化を含む)--適応と実際--…〈竹中克斗 大本英次郎 原田実根〉 99 A CMLにおける病期分類と予後因子…100 B 治療の効果判定…103 C 病名告知の必要性…104 D CMLの治療戦略…104 1.慢性期における化学療法…104 2.移行期,急性転化期における化学療法…110 3.造血幹細胞移植…111 4.CMLの治療指針…121 4.慢性リンパ性白血病と類縁疾患の治療--適応と実際--…〈押味和夫〉 129 A 慢性リンパ性白血病…129 1.慢性リンパ性白血病とは…129 2.CLLの病期分類と予後…129 3.CLLの治療法…130 B prolymphocytic leukemia…133 C hairy cell leukemia…133 D 非ホジキンリンパ腫の白血化…135 E 形質細胞性白血病…135 F 顆粒リンパ球増多症…136 5.成人T細胞白血病の治療--適応と実際--…〈田口博國〉 139 A 疾患分類と診断基準…139 B 成人T細胞白血病の治療…140 1.慢性型の治療…140 2.皮膚限局型の治療…140 3.急性型およびリンパ腫型ATLの治療…141 4.骨髄移植…143 5.再発時のサルベージ療法…143 C 合併症の治療と予防…143 1.高Ca血症の治療…143 2.日和見感染の予防…1433.骨髄異形成症候群…145 1.骨髄異形成症候群の分類・症状・診断・鑑別診断…〈黒沢光俊 武蔵 学〉 145 A 概念と成因…145 B 分類…145 C 臨床症状…146 D 診断…146 1.末梢血…148 2.骨髄…148 3.細胞化学…149 4.生化学検査所見…149 5.血清学・免疫学的検査所見…149 6.染色体異常…149 7.遺伝子異常…150 8.その他…151 E 鑑別診断…152 1.急性骨髄性白血病…152 2.AML with trilineage myelodysplasia…152 3.再生不良性貧血…152 4.慢性骨髄性白血病…153 5.特発性血小板減少性紫斑病…153 6.特殊なMDS…153 F 予後…154 2.骨髄異形成症候群の治療--適応と実際--…〈堀田知光〉 158 A MDSのリスク分類と治療法の選択…158 B 治療法の実際…160 1.造血刺激療法…160 2.免疫抑制療法…160 3.分化誘導療法…161 4.化学療法…1614.悪性リンパ腫…165 1.悪性リンパ腫の分類…〈飛内賢正〉 165 A Working Formulation(WF)…165 1.WF作成プロジェクト…165 2.我が国におけるWFの有用性の検討…165 B REAL分類…166 1.REAL分類の特徴と利点…168 2.REAL分類の問題点…168 3.REAL分類の臨床的有用性に関する検討…168 C WHO分類…177 2.悪性リンパ腫の症状・診断・鑑別診断…〈小林幸夫〉 180 A 症状…180 B 診断…181 1.リンパ節生検と組織型決定…182 2.細胞表面マーカー…182 3.遺伝子診断…182 4.染色体検査…183 5.生化学・血清学的検査…183 6.Staging…183 7.経過観察時の検査…184 C 鑑別診断…184 3.悪性リンパ腫の病期分類・予後指数…〈青木定夫〉 186 A 悪性リンパ腫の病期分類…186 1.臨床病期と病理学的病期…186 2.病期分類…187 3.病期決定…188 B 悪性リンパ腫の予後指数…189 1.International Prognostic Index(IPI),国際予後指数…189 C その他の予後因子…193 D 予後因子の意味するもの…195 4.悪性リンパ腫の放射線治療--適応と実際--…〈大川智彦 喜多みどり〉 197 A ホジキンリンパ腫の放射線治療の適応と実際…197 B 非ホジキン(Hodgkin)リンパ腫の放射線治療の適応と実際…199 C 治療成績…201 1.ホジキンリンパ腫…201 2.非ホジキンリンパ腫…202 D 節外性リンパ腫の放射線治療…203 E 放射線治療に伴う合併症…204 1.急性…204 2.晩期…205 5.悪性リンパ腫の化学療法--適応と実際--…〈岡村精一 広田雄一〉 207 A ホジキン病の治療…207 1.早期ホジキン病の治療…209 2.進行期ホジキン病の治療…210 3.再発ホジキン病の治療…212 4.晩期合併症…213 B 非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療方針…214 1.低悪性度群の治療…218 2.中等度悪性群の治療…219 3.高度悪性群の治療…223 4.再発期あるいは治療抵抗性NHLの救援化学療法…224 5.高齢者に対する治療…227 6.特殊なリンパ腫について…228 6.悪性リンパ腫の造血幹細胞移植--適応と実際--…〈岡本真一郎〉 238 A 非ホジキンリンパ腫…238 1.再発・治療抵抗例に対するHDT…238 2.初回寛解導入後の部分寛解例に対するHDT…241 3.予後不良と考えられる第1寛解期例に対するHDT…241 B 非ホジキンリンパ腫:high-grade…244 C 非ホジキンリンパ腫:low-grade…246 D ホジキン病…248 E その他の病型…251 1.Mantle cell lymphoma(MCL)…251 2.Ki-1リンパ腫…251 F 造血幹細胞のsource…251 1.同種移植か自家移植か?…251 2.骨髄か末梢血か臍帯血か?…254 G 前処置…255 H HDT後の治療…256 I HDTの後期合併症…2575.多発性骨髄腫…263 1.多発性骨髄腫の症状・診断・鑑別診断・病期分類…〈河野道生〉 263 A 診断基準…263 B 病型分類…268 C 重症度…269 D 治療…269 2.多発性骨髄腫の化学療法・放射線療法--適応と実際--…〈戸川 敦〉 272 A 最近の治療法…272 B 化学療法…273 C interferonα(IFN)療法…275 D 放射線療法…276 3.多発性骨髄腫の造血幹細胞移植--適応と実際--…〈平岡 諦〉 279 A 患者年齢分布…279 B 同系骨髄移植…280 C 同種骨髄移植…280 1.成績とrisk factor…280 2.Graft-versus-myeloma effect…282 3.同種骨髄移植の問題点とnon-myeloablative transplantation…283 D 自家骨髄移植,末梢造血幹細胞移植…284 1.成績とRisk factor…284 2.自家移植の問題点と解決策…285 E 本邦における成績および自験例…2886.造血器腫瘍の支持療法…291 1.感染症の治療…〈高木省治郎〉 291 A 好中球減少と細菌感染…291 B 感染の予防対策…291 1.治療環境(無菌室等)…291 2.予防投与…292 C Empiric therapy…295 1.好中球減少の発熱患者では緑膿菌に強い抗菌力を示すβラクタム剤と アミノグリコシドを併用した治療で開始すること…295 1.バンコマイシンの使用は慎重に行うこと…295 2.抗生物質の使い方は発熱と好中球数で判断する…296 D 真菌感染の診断と治療…297 E よくある感染症とその対策…298 1.MRSA…298 2.Pneumocystis carinii肺炎…298 3.嫌気性菌感染症…298 4.カテーテル感染…299 5.骨髄移植とウイルス感染…299 F G-CSF,M-CSFと感染症…299 2.出血の予防と治療…〈高木省治郎〉 302 A 出血の予防…302 1.予防的な血小板輸血…302 2.出血を予防する薬剤…303 B 出血の治療…303 1.出血量の推定…303 2.赤血球輸血…303 3.造血幹細胞移植後の輸血…304 4.血小板輸血…304 5.Disseminated intravascular coagulation(DIC)…305 3.抗腫瘍薬の非血液毒性とその対策…〈熊谷匡也 高木敏之〉 308 A 悪心・嘔吐…308 B 口腔粘膜障害…309 C 胃潰瘍からの出血と消化管穿孔…309 D 便通異常…309 E 肝障害…310 F 肺毒性…310 G 心筋毒性…311 H 腎障害と出血性膀胱炎…311 I 神経毒性…312 J 皮膚障害,脱毛…312索引…315