出版社内容情報
《内容》 ◆本書は膨大な量の情報の中から,特に注目すべきトピックを選び,その分野の第一人者が内外の文献をふまえて最新の進歩を展望している.
◆文献抄録ではなく,その内容,評価が理解できる.
◆どのような重要な業績,文献があったかを確実にフォローできる.
◆主要文献を網羅しているので,reference sourceとしても極めて便利である.
序
細胞内で合成される全蛋白質の実に30~50%以上が,最終的な正しい高次構造を形成することなく分解されてしまうという報告がNature誌を中心に立て続けに発表された.分解産物の一部は,当然のことながら免疫系のサーベイも受けることになる.これらの研究は私達にとり,この一年最も印象的な研究のひとつであった.このことはすなわち,細胞内で蛋白質の品質管理を司る機構がきわめて厳密に用意されていることを示すわけであるが,逆に翻訳レベル,蛋白質合成高次構造形成レベルで生物は大変な無駄を行っていることも示唆している.これらの過程の中からある一定程度の成熟,機能性蛋白質を創り出しているわけである.まさにこれは,自己認識性T細胞が胸腺での選択機構の過程で,その大多数が死滅していく壮大な無駄の現象を連想させる.無駄が故の,しかし生物にとり最も重要な基本機構と考えられる.いや,多分無駄な機構ではなく,生命の恒常性維持に必須な基本機構なのであろう.
翻って,世の中は経済,社会ばかりでなく研究も教育も効率重視の世界である.私たち科学する者のなかには,今のこのような,場合によっては行きすぎた効率重視の世の中がどこか大変な間違いを犯しているのではないかと危惧するものが少なくない.上の生物現象をみれば当然のことと思える.
免疫学の様々な機構がこの一年も明らかとなった.各著者の御協力により,そのかなりの部分が本書に網羅されている.新たな免疫学の知見を通し,社会にも何らかの貢献ができれば大変素晴らしい.
2001年11月
編者一同
《目次》
目 次
I.B細胞
受容体とB細胞抗原レセプターシグナル制御 <石合正道,黒崎知博> 1
II.T細胞
1.Th1/Th2分化に関与する細胞内シグナル伝達 <久保允人> 10
2.T細胞分化制御におけるGrb2ファミリー分子の機能的役割 <菊地 和,菅村和夫> 19
3.幼若Tリンパ球の生死選択と抗原受容体 <高浜洋介,鈴木大介> 26
III.マクロファージ・抗原提示細胞
1.Toll-like receptors(TLR)による抗原提示細胞の活性化制御 <邊見弘明,審良静男> 33
2.樹状細胞プリカーサー <米山博之,松島綱治> 41
3.樹状細胞サブセットと自然免疫・獲得免疫 <樗木俊聡,小安重夫> 50
4.プロテアソームと小胞体関連分解(ERAD)機構 <徳永文稔> 56
IV.NK細胞・NKT細胞
1.NK細胞,NKT細胞の標的細胞認識とその活性化制御 <原田通成,谷口 克> 65
2.NK細胞機能と病態 <渋谷 彰> 76
V.サイトカイン・ケモカイン
1.Gp130シグナルとその異常 <石原克彦,平野俊夫> 83
2.SOCS/CISファミリーによるサイトカインシグナルの負の制御
<花田俊勝,吉村昭彦> 91
3.シグナル伝達と細胞膜ドメイン <高岡晃教> 99
4.ヒスタミンのIL-18誘導作用--Th1/Th2細胞間のクロストーク因子としてのヒスタミン <岩垣博巳,高橋英夫,田中紀章> 114
5.リンパ球トラフィックとケモカイン/ケモカインレセプター <義江 修> 125
6.NF-κB活性化にかかわるシグナル伝達研究の新知見 <早川磨紀男> 142
B,IKK,SCF,ubiquitination,TRAF,RIP,NIK,MEKK
7.オステオポンチンと免疫制御 <森本純子,上出利光> 151
VI.接着因子・共刺激因子
移植免疫寛容誘導における補助シグナル分子群の役割 <山田 陽> 158
VII.免疫組織
1.IL-7レセプターシグナルによるTCRγ遺伝子座の組換え制御
<生田宏一, 相奎,李 海天,縣 保年> 168
2.レーザーマイクロダイセクションを利用した免疫組織の新しい解析法 <一宮慎吾,近藤伸彦,百田洋之,佐藤昇志> 174
VIII.免疫寛容・免疫調節
1.メモリーCD8+T細胞の維持 <村上正晃> 180
2.Bcl6とメモリーT細胞の分化 <市井啓仁,坂本明美,徳久剛史> 187
3.記憶B細胞レパトアの形成とFasによる制御 <高橋宜聖> 194
4.癌抑制遺伝子PTENと自己寛容 <鈴木 聡,山口麻奈絵,大石美奈子,仲野 徹> 201
IX.感染と免疫
1.感染免疫とToll-like receptors <松口徹也> 208
2.感染防御とコレクチンファミリー <鈴木定彦,若宮伸隆> 217
X.腫瘍免疫・移植免疫
1.CD4+T細胞腫瘍抗原エピトープ <金関貴幸,氷見徹夫,佐藤昇志> 226
2.造血器腫瘍標的抗原と免疫療法 <松下麻衣子,河上 裕> 233
3.熱ショック蛋白による癌抗原ペプチド免疫原性の増強と癌ワクチン <田村保明,上田剛生,佐藤昇志> 244
4.ミニ移植とGVT効果 <平家勇司,高上洋一> 251
5.遺伝子操作による異種移植拒絶の制御 <白倉良太> 258
XI.免疫疾患
1.Th1/Th2バランス制御と免疫病 <西村孝司> 268
2.Fcレセプター欠損マウスと免疫異常 <中村 晃,貫和敏博,高井俊行> 283
3.サルコイドーシスと免疫調節,異常 <四十坊典晴,重原克則,阿部庄作> 290
4.PD-1欠損マウスと免疫異常 <岡崎 拓,本庶 佑> 298
索 引 306